自宅は、配偶者と子の
どちらが相続する?
7つの視点で、決める前に確かめます。
「父が亡くなった。自宅は母が相続するのか、それとも子が相続するのか」。自宅のご相談は、多くがこの問いから始まります。ご自身の相続に備えて、「自宅は妻(夫)に残すか、子に残すか」と考え始めた方からも、同じ問いをいただきます。
どちらに決めるにしても、今回の相続税だけでなく、配偶者の生活資金、住み続ける安心、将来の売却、2次相続、子どもたちの意向まで見て考える必要があります。このページでは、自宅を誰が相続するかを決める前に確かめたい7つの視点を整理します。
自宅を誰が相続するかは、税金と暮らしを合わせて考えます
配偶者が住み続けられることや、今回の相続税を抑えられることは、大切な判断材料です。そこに、配偶者の生活資金、ほかの相続人との公平、将来売却するときの動きやすさ、次の相続で誰に引き継ぐかを合わせて考えます。
当事務所が判断の軸にしているのは、「税金の答えに、家族を合わせない」ことです。
配偶者か子か、の二択だけではありません。子が自宅を相続し、配偶者は配偶者居住権で住み続ける形もあります。配偶者が亡くなると配偶者居住権は消え、その分に2次相続の相続税はかかりません。一方で、登記が必要で、配偶者居住権そのものは売ることができないなど、注意点もあります。
配偶者が相続する場合と、子が相続する場合を、次の7つの視点で比べます。
図:7つの視点の全体像です。7つの視点を、法(③いまの不動産の価格・⑥配偶者亡きあとの方針)、税(①相続税・④購入価格と建築時期)、暮らし(②配偶者の資産・収入、⑤終のすみ家)、想い(⑦子どもたちの意向)の4つの面に分けています。
自宅相続の選択 7つの視点
- 視点① 相続税がかかるか
- 視点② 配偶者の資産・収入はいくらか
- 視点③ 現在の不動産価格が把握できているか
- 視点④ 購入価格が分かるか・建築時期はいつか
- 視点⑤ 配偶者の終のすみ家となるか
- 視点⑥ 配偶者亡きあとの方針が決まっているか
- 視点⑦ 子どもたちの意向を把握しているか
視点① 相続税がかかるか
図:税の面で確かめる3つのこと(申告が要るか、配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例)と、見落としやすい点です。
自宅相続の判断では、まず「相続税の申告が必要かどうか」を確認しておくと、話がぶれにくくなります。境界線に近いご家庭ほど、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例で結果が大きく変わります。なお、これらの特例を使うには、税額がゼロになる場合でも申告が必要です。
目安は基礎控除です。正味の遺産が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」(配偶者と子2人なら4,800万円)に収まれば、申告は要りません。超えそうなときに、次の2つの特例が関わってきます。
- 配偶者の税額軽減:配偶者が取得した財産のうち、1億6,000万円か法定相続分のどちらか多い額までは、配偶者に相続税がかかりません
- 小規模宅地等の特例:自宅の土地(330㎡まで)の評価額を80%減らせます。配偶者が取得する場合は、同居や住み続けることの条件なしに使えます。同居していない子が取得する場合は、条件が厳しくなります
また、自宅を「配偶者に多めに残す」選択は、1次相続では整って見えても、2次相続で税負担が増えることがあります。
2次相続では配偶者の税額軽減が使えず、相続人が1人減る分、基礎控除も600万円下がります。1次相続で配偶者に集めた財産は、そのまま2次相続の課税対象になります。1次と2次を合わせた税額で比べることが、この視点の中身です。
税金がかからないから配偶者に、とは限りません。税額がいちばん低い分け方が、ご家族にとってよい分け方とも限りません。
当事務所では、まず財産調査と財産目録の作成を行い、そのうえで相続税がかかるかどうかを税理士と連携して確かめ、1次と2次を合わせた見通しを立ててから、名義の話に入ります。相続税の申告が必要かどうかの判断の手順は、次の記事にまとめています。
相続税が少なくなる分け方が、そのままご家族にとってよい分け方とは限りません。相続税の評価と、実際に分けるときの時価の違いから、次の記事で整理しています。
視点② 配偶者の資産・収入はいくらか
図:暮らしの面で確かめること(預貯金・年金・毎月の収支・予備費)と、配偶者の財産が多いとき、生活資金が心もとないときの考え方です。
配偶者の預貯金や収入(年金など)によって、自宅を残すべきか子へ移すべきかの結論は変わります。生活資金が十分でない場合は、住まいそのものが生活基盤となります。
先に確かめるのは、配偶者のこれからの暮らしが回るかどうかです。
- 住まい:自宅にローンが残っていないか。住み続けるのに、修繕や管理の負担はどれくらいか
- 毎月の収支:遺族年金とご自身の年金で、月々の支払いがまかなえるか。遺族年金の目安は、ねんきんネットなどで前もって確かめられます
- 手元の予備費:入院、施設への入居、リフォームに備えて、自由に使える預貯金がどれだけ残るか
- 配偶者自身の財産:配偶者名義の預貯金や不動産が、もともとどれくらいあるか
配偶者自身の財産がもともと多いご家庭では、そこへ自宅までさらに集めると、2次相続の課税対象が膨らみます。反対に、年金が少なく預貯金も心もとないなら、税金より先に、住まいと生活費を守る分け方を考えます。
「とりあえず配偶者に」という決め方が、2次相続で負担を増やすことがあります。配偶者の資産と合わせて見ておく必要があります。
配偶者はご自身の財産を話したがらないことも多いのですが、ここが見えないまま名義を決めると、あとから変えるのは簡単ではありません。
「母が全部」か「法定相続分どおり」かで、2次相続まで含めた税額がどう変わるかは、次の記事で具体例を使って整理しています。
とりあえず配偶者で大丈夫?|2次相続まで考えると、税金だけでは決められません
配偶者の生活を先に守り、そのうえで余った分にだけ対策を考える。この順番を、生命保険で2次相続の代償金に備えた想定例で見られます。
視点③ 現在の不動産価格が把握できているか
図:不動産の3つの価格と、遺産分割で時価を使う理由、調べ方です。
売却の可能性があるなら、現時点の市場価格を把握することが欠かせません。相場を知らないまま遺産分割の話し合いに進むと、不公平感が生じやすくなります。
不動産には、目的のちがう3つの価格があります。
- 相続税評価額:路線価などで決まる、相続税を計算するための価格。時価より低いことが多い
- 固定資産税評価額:固定資産税と、相続登記の登録免許税の計算に使う価格
- 時価:いま売るといくらか。遺産分割で「公平かどうか」を考えるときの、ものさし
自宅を配偶者が取得し、子が預貯金を取得する。そんな分け方の公平は、相続税評価額ではなく時価で見ます。自宅を取得した人がほかの相続人に払う代償金の額も、時価をもとに話し合います。相続税がかからないご家庭でも、ここは変わりません。
売る予定がなくても、時価を知らないと分け方の話は進みません。売る可能性があるなら、譲渡所得税の見立てにも時価が要ります。
調べ方は、不動産会社の査定を複数取るのが基本です。査定額は会社によって幅があり、高い査定額が売れる価格とは限りません。近くの取引事例とあわせて見ます。
売却するか、このまま持つか迷う方へ。方針整理と依頼先選びを一緒に進めるサポートを行っています。
相続時・相続後の不動産サポート|方針整理と依頼先選びを中立な立場でご案内します
土地と建物の評価のしくみ、相続税評価額と遺産分割で使う時価の違いは、次の記事にまとめています。
相続の不動産価格の考え方|土地と建物、相続税評価と遺産分割の違いを整理
自宅相続の方針は、相続財産全体を調査したうえで考えると、税金・分け方・名義変更の流れが見えやすくなります。
視点④ 購入価格が分かるか・建築時期はいつか
図:売るときの税金に関わる、購入(建築)価格と建築時期、探す資料です。
譲渡所得税を計算する際には、建築・購入価格が重要です。契約書・領収書の保管は、将来の売却に備えた税務上の生命線になります。また、昭和56年5月31日以前に建てられた建物かどうかは、耐震性や各種特例の適用にも影響します。
譲渡所得税は、売った価格から、買ったときの価格(取得費)と売るときの費用を引いた利益にかかります。購入価格が分からないと、売った価格の5%しか取得費にできません(概算取得費)。親の代に買った家ほど、この差が大きくなります。
契約書が見つからないときは、住宅ローンの資料、通帳の大きな出金記録、火災保険の書類、当時のパンフレットに手がかりが残っていることがあります。なお、建物の取得費は、年数がたつほど減っていきます(減価償却)。購入価格より安く売っても、土地と建物の内訳しだいでは利益が出ることがあります。
建築時期は、空き家特例に関わります。相続のあと、誰も住まなくなった家を売るとき、昭和56年5月31日以前に建てられた家であれば、条件を満たすと売却益から3,000万円を差し引けます(相続空き家の3,000万円控除。令和9年12月31日までの売却)。亡くなった方がひとりで住んでいたことが条件なので、配偶者が住み続けているあいだは使えず、配偶者の相続のときにはじめて検討することになります。
住んでいる人が売るなら、居住用財産の3,000万円特別控除があります。配偶者が自宅を取得し、のちに施設へ移ってから売る場合も、住まなくなった日から3年目の年末までに売れば対象です。子の名義にしてから売ると、子がそこに住んでいなければ、この控除は使えません。
誰の名義にするかで、売るときの税金が大きく変わります。名義は、将来の出口まで見て決めます。
相続登記で自宅を子の名義にしたため、住まいを売ったときの3,000万円特別控除が使えず、譲渡税が増えた例はこちらです。
自宅を子の名義にしたため、住まいを売ったときの3,000万円特別控除が使えず、譲渡税が増えた例はこちらです。
相続登記を子名義にしたら、譲渡税が増えた|自宅売却と3,000万円特別控除の落とし穴
空き家特例の要件・期限・流れと、特例が使えるかどうかの確かめ方は、次の記事にまとめています。特例が使えるかの判定は、税理士と連携して確かめます。
視点⑤ 配偶者の終のすみ家となるか
図:最期まで住む前提か、将来は住み替えも考えるかで分かれる備えと、その手段です。
最期まで自宅で過ごす前提なのか、将来は施設や別の住まいも視野に入れるのか。判断能力の低下、修繕・管理の負担も踏まえながら、民事信託(家族信託)や贈与などの選択肢を検討します。
最期まで住む前提なら、配偶者の名義にするのが分かりやすい形です。子が自宅を相続し、配偶者は配偶者居住権で住み続ける形もあります(上の「判断の要点」)。
将来、施設への入居や住み替えの可能性があるなら、「そのとき売れるか」を先に確かめます。名義人の判断能力が低下すると、自宅は売れなくなります。成年後見の申立てをすれば進められますが、ご本人の住まいを売るには家庭裁判所の許可が要り、時間も手間もかかります。後見が始まると、財産はご本人のために使うことが原則になり、ご家族の都合だけでは動かせなくなります。
配偶者の財産のまま、売れる形を先に確保する手段が民事信託です。判断能力が落ちても、受託者(子など)が売却できます。ただし、信託にした自宅は、相続のあと空き家として売るときの空き家特例が使えません。生前に贈与して子の名義にすると、子がそこに住んでいなければ、売るときの3,000万円控除は使えません。
【テキスト】※この段落は太字にする
遺言も、贈与も、民事信託も、任意後見も、作れるのは判断能力があるうちだけです。
制度名より先に、「いつ・何を先に決めるか(順番)」を整えておくと、あとで法律と税務の混線が出にくくなります。
認知症対策は、制度名(信託・贈与など)から入ると、あとで売却や税の場面でズレが出ることがあります。順番を整える入口はこちらです。
自宅の認知症対策|遺言・贈与・信託・任意後見・成年後見を「比較して選ぶ」
施設に入ったお母様の自宅を、判断能力が落ちる前に売れる形にする場面で、信託と贈与を3,000万円控除・費用・名義の3つで比べた判断例があります。
視点⑥ 配偶者亡きあとの方針が決まっているか
2次相続でトラブルが起きやすいのは、「配偶者亡きあとの扱い」を決めていないケースです。誰が取得するのか、売却するのか、共有にするのか。大まかな方針だけでも決めておくことで、次の世代の負担が軽くなります。
【テキスト→箇条書き】※3行を選択して箇条書きにする。各行の「:」の前だけを太字にする
- 誰が取得するか:子の誰が住むのか、継ぐのか。住まない子との公平は、代償金で整えるのか
- 売却するか:いつ、どのように売るか。名義をひとりにまとめて精算する(代償分割)か、売って現金で分ける(換価分割)か
- 共有にするか:売る・貸す・直すのどれにも、共有者全員の同意が要ります。換金の予定が近いときは合理的なこともありますが、共有者に相続が起きると、その相続人も話し合いに加わります
先送りしがちなパターン
・配偶者が亡くなった時点で、子ども同士の意見が割れる
・共有になっていて、売るにも貸すにも話が進まない
・管理費・固定資産税などの負担で、揉めごとが表面化する
「名義をひとりにまとめて精算する(代償分割)」のか、「売って現金で分ける(換価分割)」のか。大枠だけでも先に整理しておくと、2次相続の話し合いが進めやすくなります。
【リンク】※いまのまま
不動産がある相続の遺産分割|代償分割と換価分割の違い(総論)
配偶者が自宅を取得する場合は、配偶者の遺言で次の取得者を決めておく方法があります。子が取得する場合は、その子に万一があったとき、持分がその子の配偶者や子へ移ることまで見ておきます。
今回の相続で見えた課題(配偶者への財産の集中、次に誰が自宅を継ぐか、分けにくい不動産)を、次の相続に持ち越さないための考え方は、次の記事にまとめています。
今回の相続で見えた課題を、次に持ち越さない|生前対策と不動産の出口
遺産分割が終わらないうちに配偶者も亡くなり、次の相続が始まることもあります(数次相続)。子ども名義へまとめる近道にも、配偶者名義にする場合の相続税にも、注意が要ります。
数次相続の落とし穴|子ども名義へ「まとめる近道」は黄色信号――配偶者名義も相続税とセットで要注意
視点⑦ 子どもたちの意向を把握しているか
図:子どもたちの意向を確かめるときの3つの点(想像で決めない、意見は変わる、家族会議)です。
「こう思っているだろう」という想像だけで判断せず、一度は家族で時間を取って、自宅をどうしたいか本音を確認する場を持てると理想的です。年に1回程度の家族会議を続けていくと、状況の変化にも対応しやすくなります。
確かめたいのは、次のようなことです。
【テキスト→箇条書き】※4行を選択して箇条書きにする。各行の「:」の前だけを太字にする
- 住みたい子はいるか:いま同居している子、将来戻ってくる可能性のある子はいるか
- ほかの子との公平感:自宅を取得しない子は、預貯金や代償金で納得できるか
- 負担の分担:固定資産税、修繕、管理を、誰が担うか
- 売ることへの気持ち:親の家を売ることに、抵抗のある子はいないか
子どもの考えは、結婚、転勤、住み替え、離婚など、生活の変化で変わります。いま20代の子が10年後にどう暮らしているかは分かりません。一度聞いたら終わりではなく、年に1回ほど確かめ直すと、状況の変化に合わせて方針を直せます。
子ども全員で納得して決められるのが理想ですが、価値観・生活・経済状況が違えば、意見がそろわないのは自然なことでもあります。大事なのは「うまくまとめなければ」と焦ることではなく、合意形成ができそうか・難しそうかを早めに見極めることです。
意見がそろわないときも、争いになる前であれば、司法書士が中立な立場で、法律・税金・手続きの前提を相続人の皆さまに同じように説明し、話し合いの土台を整えます。争いになる場合は、ご依頼者の側に立つ弁護士をご紹介します。
住み続けたい気持ちと、ほかの子どもたちとの公平感をどう両立させるかは、次の記事で整理しています。
自宅をめぐる相続の考え方|住み続けたい気持ちと公平感をどう両立させるか
決めたことを、いつ・誰に・どう伝えるかで、受け止め方は変わります。伝え方まで考えた判断例はこちらです。
相続は「何をするか」だけでは決まらない|いつ・誰に・どう伝えるかまで考える
合意が難しいときほど、遺言・生前贈与などの2次相続対策を踏まえて、「1次相続でどう受け取っておくか」を逆算して考えると、整理がしやすくなります。
まとめ 自宅相続は「法・税・暮らし・想い」を7つの視点で考える
図:7つの視点のまとめ表です。視点ごとに、確かめることと、見落とすと起きやすいことを並べています。
自宅相続は、単なる名義変更ではありません。残されたご家族の生活基盤であり、想いの引き継ぎ方そのものです。税金だけ・法律だけに偏らず、生活設計と家族の気持ちを見渡すための「ものさし」として、7つの視点をお使いください。
状況に合わせて、次に読むページ
7つの視点を使って、実際にどう決めたかを見たい方へ
自宅は誰が相続すべき? 住み続ける安心と将来の売却を両立する考え方(想定例)
配偶者か子か、いますぐには決められない方へ
配偶者か子か。決められないなら「今は決めない」|相続登記を急ぐ前に
相続全体の順番を確かめたい方へ
自宅の名義変更(相続登記)の進め方と費用を知りたい方へ
自宅相続のご相談・実務サポート
自宅の名義・分け方・売却の可否・2次相続までを含めて整理するのは、ご家族だけでは難しいことがあります。当事務所では、相続登記だけでなく、遺産分割・預貯金・不動産売却まで一体でお受けしています。
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