自筆証書遺言の法務局保管制度(総合ガイド)
自筆証書遺言の弱点は「紛失・改ざん・検認」です。法務局の保管制度なら、手数料3,900円(2026年10月時点)で、この3つが片づきます。ただし、中身までは守ってくれません。
故人の最終的な意思を尊重するための大切な書類、それが遺言書です。なかでも、費用をかけずに自分ひとりで手書きできる自筆証書遺言は、もっとも身近な選択肢といえます。
ただ、自筆証書遺言には「紛失・改ざん・検認」などの不安がありました。そこで2020年7月10日に始まったのが、法務局に遺言書を預ける自筆証書遺言書保管制度です。このページは、制度の全体像をつかむ総合ガイドとして、メリット・様式・流れ・注意点を実務の目線でまとめます。
この記事の内容
・自筆証書遺言の「よくある不安」
・法務局保管制度の4つのメリット
・保管制度を使うときの、遺言書の様式ルール
・法務局へ預けるまでの流れ
・亡くなったあとの流れ(全体像)
・費用・証明書・通知のしくみ(ここだけ押さえる)
・意外な落とし穴(ここがいちばん大事)
・書き直したいときの考え方
・預け方は決まっています。迷うのは、預ける前に中身を整えたか
・遺言の記事をあわせて読む
・まとめ 制度を賢く使うポイント
自筆証書遺言の「よくある不安」
自筆証書遺言は身近な反面、次の不安がつきまといがちです。
- 紛失:どこに置いたか分からなくなる、見つけてもらえない
- 破棄・隠匿・偽造:手元にあること自体が、火種になり得る
- 検認:亡くなったあと、家庭裁判所の検認が必要になり、手続きが止まりやすい
この不安を軽くするために用意されたのが、法務局が遺言書を預かる自筆証書遺言書保管制度です。
法務局保管制度の4つのメリット
- 紛失の心配が減る:原本と画像データを、法務局が保管する
- 偽造・隠匿を防げる:原本が公的機関にある
- 生前は中身を見られにくい:遺言者が生きている間は、閲覧できるのは本人だけ
- 家庭裁判所の検認が要らない:亡くなったあと、相続の手続きにすぐ進める
とくに大きいのは、検認が要らない点です。不動産の名義変更や預金の解約に、最初から進みやすくなります。どんな方に向く制度かは、次の記事で整理しています。
自筆証書遺言保管制度はどんな人に向く?|利用したほうがいいケースを整理
保管制度を使うときの、遺言書の様式ルール
ここは、意外と知られていません。保管制度を使う場合は、民法の方式(全文・日付・氏名を自分で書いて押印)に加えて、この制度の様式に従う必要があります。守られていないと、そもそも預かってもらえません。
- 用紙:A4サイズ。罫線があってもよい。片面だけに書く
- 余白:上5ミリ・下10ミリ・左20ミリ・右5ミリをあける。余白に1文字でもはみ出すと、書き直しになる
- 筆記具:ボールペンや万年筆など、消えにくいもの。消えるインクのペンや鉛筆は使えない
- ページ番号:すべてのページに番号を書く(「1/2」など。番号も余白の内側に)。1枚だけなら要らない
- 綴じ方:ホチキスなどで綴じず、ばらばらのまま出す。封筒も要らない
書き上げてから気づくと、書き直しになります。
保管制度に預ける予定があるなら、書き始める前に、法務省の「自筆証書遺言書保管制度」のページで、最新の様式を確かめておくことをおすすめします。
なお、財産目録は自分で書かなくてもかまいません(2019年1月13日からの扱い)。パソコンで作ったり、通帳や登記事項証明書のコピーを付けたりできます。ただし、目録のすべてのページに署名・押印が要り、ページ番号も本文と通しにします。付言事項は、遺言書の本文の一部として自分で書きます。
法務局へ預けるまでの流れ
下の図は、預けるときから亡くなったあとまでの流れを、1枚にしたものです。
様式どおりに書く:遺言書と、申請書を前もって作っておく(遺言書は封をしない)
- 予約する:遺言書保管所(法務局)に、電話かインターネットで予約する。予約なしでは手続きできない
- 本人が出向く:遺言者本人が出向く。代理人や郵送での申請はできない
- 保管証を受け取る:形式の確認を受け、問題がなければ保管され、保管証が渡される
持っていくのは、遺言書、申請書、本籍と筆頭者の書かれた住民票の写し、顔写真つきの本人確認書類(マイナンバーカード・運転免許証など)、手数料の収入印紙です。職員が、民法の方式と制度の様式に合っているかを確かめ、不備があれば、その場で直しを求められることがあります。
- どこの法務局か:遺言者の住所地・本籍地・持っている不動産の所在地のどれかを受け持つ遺言書保管所。2通目からは、最初に預けた遺言書保管所にしか申請できない
- 保管証:保管番号が書かれていて、あとの手続きで役に立つ。再発行はできないので、家族があとで確かめられる場所に置くか、写しを渡しておく
- 手数料:遺言書1通につき3,900円(2026年10月時点)。収入印紙で納める
介助のための付き添いはできますが、入院中などで本人が出向けないときは、この制度は使えません。急ぐ場面では、この点が効いてきます。そうした場面の考え方は、次の記事で整理しています。
急ぐなら「とりあえず遺言」も選択肢|公正証書が間に合わないときの自筆証書遺言
亡くなったあとの流れ(全体像)
- 原本の保管:法務局が原本と画像データを管理する。生前は、原則として本人しか閲覧できない
- 指定者通知:法務局が亡くなったことを確かめると、遺言者があらかじめ指定した人へ、遺言書が預けてあることが通知される
- 保管事実証明書:預けてあるかどうかを確かめる。誰でも請求でき、ほかの相続人への通知はない
- 遺言書情報証明書:相続人などが取得し、遺言の中身を確かめ、相続の手続きに使う。取得や閲覧があると、ほかの相続人などに通知が届く
- 相続の手続きへ:検認を経ずに、金融機関や不動産の手続きへ進む
遺言書が預けてあるかを最初に確かめる方法は、次の記事で整理しています。
遺言書保管事実証明書|「保管されているか」を確認する最初の一手(通知なし)
費用・証明書・通知のしくみ(ここだけ押さえる)
手数料は、どれも収入印紙で納めます(金額は2026年10月時点)。
- 保管の申請:遺言書1通につき3,900円
- 遺言書保管事実証明書:1通800円。預けてあるかを確かめる書面。ほかの相続人への通知はない
- 遺言書情報証明書:1通1,400円。遺言の中身を証明し、相続の手続きに使う中心の書類。取得すると通知が届く
- 保管の申請の撤回:遺言書を返してもらえる。手数料はかからないが、本人が出向く必要がある。撤回しても、遺言そのものの効力は変わらない
- 検認:法務局に預けた遺言書は、家庭裁判所の検認が要らない
通知には2種類あり、混同しやすいところです。
- 指定者通知(自動で届く):法務局が亡くなったことを確かめた時点で、遺言者があらかじめ指定した人へ届く。誰も動かなくても届くので、「遺言があること自体、誰も知らない」を防げる
- 関係遺言書保管通知(誰かが動いたあとに届く):相続人などの誰かが閲覧したり、遺言書情報証明書を取ったりすると、ほかの相続人などの全員に届く。誰も動かなければ届かない
2023年10月2日から、指定者通知が使いやすくなりました。指定できる人が、受遺者・遺言執行者・推定相続人に限られなくなり、人数も3人まで指定できます(以前は1人)。すでに1人を指定している場合も、変更の届出で追加できます。証明書の取り方と使い方、閲覧のしかたは、次の2本で整理しています。
自筆証書遺言保管制度「証明書」|遺言書情報証明書の取り方・使い方(検認不要の実務)
自筆証書遺言保管制度「閲覧」|生前・死後で誰が見られる?申請先・通知の実務ポイント
意外な落とし穴(ここがいちばん大事)
法務局は「内容のチェック」まではしてくれません。
法務局で確かめるのは、日付・氏名・押印などの形式を外から見たところだけです。「その内容で実際に名義変更や預金の解約ができるか」「表現があいまいで争いにならないか」といった中身は、確かめられません。
たとえば、不動産の書き方や分け方の表現があいまいだと、相続の手続きの途中で止まったり、追加の話し合いが必要になったりします。「せっかく預けたのに、結局使いづらい」を避けるために、法務局へ行く前に中身まで整えておくと安心です。
もう1つの注意は、閲覧や証明書の取得で「遺言があること」が表に出ることです。相続人の誰かが閲覧したり遺言書情報証明書を取ったりすると、ほかの相続人などに通知されます。「連絡を最小限にしたい」ご家庭ほど、通知の動き方も踏まえて、遺言執行者・財産の構成・遺留分の火種まで含めて考えておくのが安全です。
そして、保管制度は、争いを防ぐ制度ではありません。きちんと預けてあっても、遺言の中身そのものに問題があれば、相続の争いは起こり得ます。保管制度が守ってくれるのは「遺言書という紙」です。「遺言の中身」を守るのは、また別の仕事になります。
書き直したいときの考え方
自筆証書遺言のよいところは、状況の変化に合わせて書き直せることです。ただし実務では、古い遺言と新しい遺言が混ざると、残された家族が迷い、争いの種になりやすいです。
法務局に預けた遺言書は、預けたまま中身を直すことはできません。中身を変えたいときは、保管の申請を撤回して返してもらい、作り直して改めて申請する方法を、法務省もすすめています。撤回に手数料はかかりませんが、預け直すときには、あらためて手数料(3,900円)がかかります。撤回も預け直しも、本人が出向く必要があります。
法律の上では、新しい遺言を作れば、預けてある遺言と食い違う部分は、撤回したものとみなされます(民法1023条1項)。ただ、古い遺言が法務局に残ったままだと、家族が迷う原因になります。
- 書き直すなら:新しい遺言を、形式も中身も「使える形」にする
- 古い遺言は:家族が迷わないよう、撤回して返してもらうなど、扱いまで整理する
- いちばん危ないのは:預けたことに安心して、そのあと自宅で「メモの遺言」を書き足すこと。これで古い遺言と新しい遺言が混ざる
- 迷いが出るなら:公正証書遺言も含めて考え直す
方式ごとの書き直し方と、混ざるのを防ぐ手順、書き間違えたときの直し方は、次の2本で整理しています。
遺言書は「書き直し」まで見据えて選ぶ|複数混在のリスクと、方式ごとの書き直し方
遺言 書き間違えてしまったら|訂正できる場合・書き直したほうがよい場合
預け方は決まっています。迷うのは、預ける前に中身を整えたか
保管制度の預け方は決まっています。様式どおりに書き、予約して、本人が出向けば、預けられます。亡くなったあとは、検認なしで相続の手続きに進めます。
本当に詰まるのは、中身です。法務局は形式しか見ないので、誰に・何を・どれだけ渡すかの書き方があいまいでも、そのまま預かります。亡くなったあとに、その遺言で名義変更ができないと分かっても、本人に聞き直すことはできません。
分かれ目は、財産の書き方と分け方を、預ける前に確かめたかどうかです。不動産や預金を特定できる書き方まで確かめられているなら、保管制度で十分なことが多いです。確かめきれないなら、預ける前に司法書士などに中身を見てもらうか、公正証書遺言も考えます。
全体の流れの中でいまどこを考えているかは相続の道筋地図で、似た状況でほかのご家族がどう決めたかは相続の判断例で確かめられます。
遺言の記事をあわせて読む
- 遺言書を探す側の方へ:遺言書がどこにあるか、あるかどうかの調べ方
- 公正証書にするか迷ったら:公正証書遺言と自筆証書遺言の選び方
- 遺言書の作り方の全体:3つの方式の選び方から、相続後に「使える」設計まで
- 判断能力が心配なとき:認知症でも遺言は作れるか
- 遺言の全体像:作成・執行・遺留分まで
遺言書ってどこにあるの?|保管場所と「あるかどうか」の調べ方
公正証書遺言と自筆証書遺言、どっち?|迷ったときの結論まで、やさしく整理
遺言書の作り方ガイド|3つの方式の選び方から、相続後に「使える」設計まで
認知症で遺言!大丈夫?|有効・無効を分ける「遺言能力」と、争いを減らす考え方
まとめ 制度を賢く使うポイント
- 保管制度は、紛失・改ざんの不安を減らし、検認なしで相続の手続きを進めやすくする
- ただし、制度の様式がある。書き始める前に確かめる
- 法務局は中身の妥当性までは確かめない。「使える遺言」に整えることが大切
- 通知は、指定者通知(自動)と関係遺言書保管通知(誰かが動いたあと)の2種類
- 書き直しはできる。だからこそ、古い遺言と新しい遺言が混ざらないように整える
- 申請は予約制で、本人が出向く。手数料は1通3,900円(2026年10月時点)。動けない状況では使えない
保管制度はとても便利ですが、結局は、遺言の中身が使える形になっているかで、相続の手続きの進み方が変わります。当事務所では、状況を伺いながら、公正証書との比較や、遺留分・通知の火種まで含めて確かめます。
「保管制度を使うか、内容をどう書くか」を迷っている段階でも、ご相談いただけます。初回のご相談は無料です。
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