法と税のズレ早見
同じ財産に、二つの値段がつきます。
税の数字と、分け方の数字を並べます。
相続の話し合いで数字が食い違うとき、その多くは、誰かが間違えているのではありません。税金のルールと、法律(遺産分割・遺留分)のルールが、別々に動いているだけです。
税は「いくらに税金がかかるか」を計算します。法律は「誰がどれだけ受け取るか」を考えます。目的が違うので、同じ財産に別々の値段がつきます。このページは、その違いを財産ごとに並べたものです。
図は、不動産・生命保険・上場株式・預金・生前贈与した財産の5つについて、相続税での見方と遺産分割での見方を並べたものです。それぞれの中身は、このあとの章で順に説明します。
このページの内容
- なぜ、同じ財産に二つの値段がつくのか
- 不動産|評価のものさしが違う
- 生命保険|分割では動かせないが、税では計算に入る
- 上場株式|評価の時点と方法が場面で変わる
- 預金|いつの残高か、誰が動かしたか
- 生前贈与した財産|評価の時点が違う
- このページの次に
なぜ、同じ財産に二つの値段がつくのか
相続税の計算は、国が税額を決めるためのものさしです。全国どこでも同じ基準で計算できるように、路線価や終値など、公に決まった数字を使います。
遺産分割は、ご家族の間で取り分を決めるための話し合いです。基準は「実際にいくらの価値があるか」で、最後は相続人全員の納得で決まります。
目的が違うので、答えも変わります。税理士の試算ときょうだいの言い分が食い違うとき、どちらかが間違えていることはあまりありません。見ている土俵が違うだけ、ということがほとんどです。
そもそも何から決めればよいかを確かめたい方は、相続の道筋地図からご覧ください。
不動産|評価のものさしが違う
相続税の計算では
路線価を使います。路線価は、公示地価のおおよそ8割の水準です。さらに小規模宅地等の特例が使える場合は、その評価が最大8割減ります。
たとえば市場で6,000万円の土地なら、路線価ベースではおおむね4,800万円。特例が使えれば、960万円まで下がることもあります。
遺産分割の話し合いでは
「実際にいくらで売れるか」(実勢価格)が基準になることが多くなります。先ほどの土地なら、6,000万円として分け方を考えることになります。
同じ土地でも、税の場面と分割の場面では、数字が5倍以上違うことがあるということです。
ただし、遺産分割協議では、相続人全員が合意すれば、路線価・公示価格・取引価格など、どの価格を基準にしても構いません。「税の申告で使った路線価でそのまま分ける」という協議も、全員の合意があれば有効です。
生命保険|分割では動かせないが、税では計算に入る
生命保険の死亡保険金は、指定された受取人が直接受け取る財産です。民法上は相続財産ではないため、遺産分割の対象になりません。遺言に書いてある遺産とは別のもの、という扱いです。
遺産分割では
受取人固有の財産です。ほかの相続人が「分けてほしい」と求めることはできません。
相続税では
みなし相続財産として、相続税の計算に含まれます。ただし「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。
遺留分では
保険金の額が遺産全体に比べて極端に大きい場合には、特別受益に準じて調整が問題になることがあります(最高裁平成16年の判例が、特段の事情がある場合として示しています)。
つまり保険金は、「遺産分割では動かせないが、相続税では計算に入る」財産です。受取人を誰にするかで、税額も、ご家族の公平感も、遺留分の話も変わります。
なお、契約の中身によっては、保険金が相続財産として扱われる場合があります。契約者と被保険者が同じで受取人が「相続人」とだけ指定されているとき、契約者と被保険者が別で、被保険者が亡くなって契約者側が契約を相続するとき(解約返戻金が相続財産になります)などです。契約者・被保険者・受取人の組み合わせによって、結論が変わります。
上場株式|評価の時点と方法が場面で変わる
相続税の評価では
死亡日・死亡した月・前月・前々月の終値のうち、最も低い価格を使います。
遺産分割の話し合いでは
実際に売却したり名義を変えたりする時点の株価が目安になります。協議が長引くと、その間に価格が動きます。申告のときの評価額と、実際に分けるときの株価が違っている、ということが起こります。
生前に贈与した株式は
特別受益として計算に入れるときは、相続開始時の時価で評価します。贈与したときの価格ではありません。
非上場株式は
相続税では、類似業種比準価額や純資産価額など、複数の方式で計算します。遺産分割で話し合う価格とは、大きく離れることがあります。
預金|いつの残高か、誰が動かしたか
預金は「現金だから簡単に分けられる」と思われがちですが、亡くなる前後のお金の動きや、協議書の書き方によって、後から問題になることがあります。
相続税の評価では
死亡日時点の残高に、既経過利息を足した額が基準です。その日に解約したらいくらになるか、という考え方です。
遺産分割では
預貯金は遺産分割の対象です。以前は「法定相続分で当然に分かれる」という考え方もありましたが、平成28年の最高裁判例以降は、協議が必要という扱いになっています。
亡くなった後の引き出し
相続人が勝手に引き出すと、法的な問題になり得ます。当面の資金が必要な場合は、仮払い制度を使えば一定額まで引き出せます。引き出してしまった場合でも、引き出した本人を除く相続人全員が合意すれば、その分を遺産分割の対象に含めて精算することができます。
亡くなる前の引き出し
生前に誰かが大きく引き出していた場合、特別受益や不当利得として争点になることがあります。「介護していたのだから当然」と「無断で持ち出した」の間で、認識が割れやすいところです。
協議書の書き方
死亡日の残高を基準にするとして、金額で書くか、割合で書くかによって、後の処理が変わります。残高が動く可能性がある場合は、割合で書いておくほうが実務は進めやすくなります。
生前贈与した財産|評価の時点が違う
生前に贈与した財産が相続の場面で再び問題になるとき、税法と民法では、評価の基準日が違います。
- 税法(相続税の加算・精算)……贈与したときの価額で相続財産に加算する
- 民法(特別受益・遺留分)……相続が始まった時点の時価で調整する
たとえば20年前に1,000万円で贈与した土地が、いま3,000万円になっていたとします。相続時精算課税による精算では1,000万円が基準ですが、民法の特別受益や遺留分の計算では3,000万円が問題になり得ます。税の申告は済んでいても、ご家族の話し合いでは今の価値が争点になる、ということです。
現金を贈与していた場合は、形が残っていません。当時の金額を相続開始時の貨幣価値に引き直して考えることになりますが、何十年も前の援助では、その引き直しの前提そのものが争点になります。
贈与税を払っても終わりじゃない!相続で関係する暦年贈与と特別受益(民法)
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初回のご相談は無料です
税理士の試算と、きょうだいの言い分が食い違う。そういうときは、どちらかが間違えているのではなく、見ている土俵が違うことがほとんどです。ご家族の財産について、税の数字と分割の数字を並べるところから整理します。税務が絡む場合は税理士と連携します。争いの代理や交渉が必要になる場合には、必要に応じて弁護士をご紹介します。その手前の、事実関係と資料の整理は当事務所でお手伝いします。
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