兄弟で相続したアパートの共有対策|民事信託(家族信託)で窓口を1人にする設計例
兄弟3人で相続したアパートを共有のままにすると、新しい入居者との契約や売却のたびに3人の同意が要り、1人が動けなくなると止まります。民事信託で窓口を1人に決め、決め方・お金・出口を契約にしておく設計例です。
相続で、兄弟3人が賃貸アパートを共有する。よくある形ですが、実務では次のような悩みが起きがちです。
- 修繕や家賃の見直しを、誰が、どこまで決めてよいのかがあいまい
- 契約や大事な書類に全員の署名・押印が必要で、予定が合わずに手続きが止まる
- 海外赴任や子育て・介護で、連絡や判断が遅れがち
そこで考えたいのが、民事信託(家族信託)です。あらかじめ「誰が窓口になって、どこまで決められるのか」「お金をどう管理し、どう分けるのか」を契約で決め、登記と専用の口座で見える化する仕組みです。この記事では、その設計例を想定例で見ていきます。
この記事の内容
・この判断例の前提
・共有のままだと、どこで止まるか
・民事信託で、窓口をBに一本化する
・設計の中身 決め方・お金・出口・もしも
・民事信託にする前に確かめたいこと
・この判断例の分かれ道
・あわせて読む
・まとめ
この判断例の前提
兄弟A・B・Cが、親から相続したアパートを3分の1ずつ共有しています。
- A:海外赴任中。連絡に時間がかかる
- B:アパートの近くに住んでいて、実務の対応が得意
- C:子育てと親の介護で忙しく、判断が遅れがち
3人とも、アパートを持ち続けて、家賃収入を3分の1ずつ受け取ることには賛成です。困っているのは、決めるたびに3人がそろわないと進まないことです。
共有のままだと、どこで止まるか
2023年4月に民法の共有のルールが変わり、共有のままでも決められることは増えました。ただ、止まりやすいところは残っています。
- 修繕・管理会社の変更:持分の過半数で決められる(2023年4月から)。3人のうち2人がそろえば進む
- 新しい入居者との賃貸契約:ふつうのアパートの賃貸契約は、更新で長く続くため、原則として3人全員の同意が要ると考えられている
- 売却:3人全員の同意が要る
- 1人が判断できなくなったとき:その人の持分は、成年後見人を付けないと動かせない。全員の同意が要る契約や売却は止まる
とくに最後の点は、時間がたつほど起こりやすくなります。3人が元気なうちに決め方を整えておく、というのがこの例の出発点です。
民事信託で、窓口をBに一本化する
この例では、A・B・Cがそれぞれの持分を信託してBに預け、Bが受託者として登記の名義人と窓口になります。家賃の純利益は、これまでどおり3人が3分の1ずつ受け取ります。
下の図は、この例の民事信託の形を並べたものです。
- 預ける人(委託者):A・B・C。それぞれの持分(3分の1ずつ)を信託財産として預ける
- 管理する人(受託者):B。登記の名義人になり、管理・賃貸・売却の窓口になる。家賃は信託口口座で管理する
- 受け取る人(受益者):A・B・C。純利益を、これまでどおり3分の1ずつ受け取る
- 見守る人(信託監督人):外部の専門職などを1人。Bを監督し、売却を承認する
- もしものとき(後継受託者):C。Bが病気や転勤で続けられなくなったら引き継ぐ
こうしておくと、次のように変わります。
- 早い:小さな判断はBがすぐに決められる。空室や修繕に素早く対応できる
- 公平:収益は3分の1ずつ分配。帳簿で中身が見える
- 安心:Bが続けられなくなっても、後継受託者が引き継ぐ。売るかどうかの物差しも先に決まっている
設計の中身 決め方・お金・出口・もしも
契約の目的は、たとえば「アパートの安定した管理・賃貸運用・必要に応じた売却を、家族で決めたルールと適正な会計のもとで行う」とします。そのうえで、次の4つを決めておきます。
決め方の線引き
- 日常の管理(100万円未満の修繕・賃貸条件の小さな変更):受託者のBが1人で決めて実行する
- 大規模修繕・リノベーション・管理会社の変更(100万円以上):受益者の過半数(持分の2分の1超)で決める
- 売却:受益者の3分の2以上の同意と、信託監督人の承認
受益者が複数いる信託では、受益者として決める場面(信託の内容の変更など)は、契約に定めがなければ全員一致になります(信託法105条)。多数決で進めたいところは、契約に書いておきます。
お金の流れ
- 家賃:信託口口座にまとめる
- 分配:管理費・修繕費・税金を払った純利益を、毎月末にA・B・Cへ3分の1ずつ
- 帳簿:受託者のBが帳簿を作って保存し、受益者がいつでも見られるようにする
出口 売るか売らないかの物差し
次のような客観的な物差しを決めておき、当てはまったら「売却検討会」を開きます。気持ちではなく、数字で話し合えます。
- 空室率:半年の平均で20%を超えた
- 修繕費:大規模修繕の見積もりの累計が、あらかじめ決めた金額を超えた
- 利回り:近くの相場から見て、あらかじめ決めた水準を続けて下回った
もしものとき
- Bが続けられなくなったら:後継受託者のCが引き継ぐ
- 受益者の1人と連絡が取れないとき:返事の期限や、返事がないときの扱い(みなし同意を認めるか)を契約に書いておく
- 受益者が亡くなったとき:受益権を誰が引き継ぐか(たとえば、それぞれの相続人)を先に決めておく
民事信託にする前に確かめたいこと
民事信託は、決め方を先に整えられる一方で、気をつけたいところもあります。
- 3人が元気なうちに:信託は、委託者全員の判断能力があるうちにしか設定できない
- Bの持分の入れ方:受託者になるB自身の持分は、Bが自分と契約することになるため、公正証書などによる自己信託で入れる方法を検討する
- 税金:委託者と受益者が同じなので、信託したときに贈与税・不動産取得税はかからない。家賃の所得は、これまでどおり3人がそれぞれ申告する
- 赤字の扱い:信託したアパートから出た不動産所得の赤字は、ほかの所得と損益通算できない。大きな修繕で赤字になる年は、影響が出る
- 受託者の負担:Bには、信託財産を自分の財産と分けて管理し、帳簿を付け、毎年、税務署に信託の計算書を出す役目がある
- 費用:信託の登記の登録免許税、公正証書の費用、専門家への報酬がかかる
税務の部分は、税理士と連携して確かめます。
この判断例の分かれ道
下の図は、この例の分かれ道を1枚にしたものです。状況、分かれ目、2つの道、ポイントの順に並べています。
- 状況:兄弟A・B・Cが、相続したアパートを3分の1ずつ共有。Bは近くに住み、実務が得意。Aは海外赴任、Cは子育てと介護で、連絡や判断が遅れがち
- 分かれ目:決めるたびに3人がそろう形のままでよいか
- 共有のまま:修繕や管理会社の変更は持分の過半数で決められるが、新しい入居者との契約や売却は原則として全員の同意。1人が判断できなくなると、その持分は動かせない
- 民事信託でBを受託者に:日常の管理はBが決め、大きな判断は受益者の多数決、売却は3分の2の同意と信託監督人の承認。収益は3分の1ずつ(この例の答え)
本当に詰まるのは、制度を選ぶことより、3人がそろって話し合えるうちに、決め方を契約にできるかどうかです。分かれ目は、この先も決めるたびに3人がそろう形でよいか、です。なお、1人がアパートを取得し、ほかの2人に代償金を払って共有をやめる、という道もあります。
ほかのご家族がどう決めたか、そして自分たちは何を決める必要があるかは、次の2つのページに整理しています。
あわせて読む
- 民事信託の全体:何ができるか、どんな場面で考えるかを整理しています
- 信託の見直し:つくった信託を、数年たってから見直すときのポイントです
- 1人の名義にまとめる場合:遺産分割協議書に「処分には承諾が必要」と書いたときの効力と、条項の決め方です
民事信託(家族信託)の手続き|何ができるか・どんな場面で考えるかを整理
その家族信託、このままで大丈夫?数年たったら確認したい2つのポイント
遺産分割協議書に「処分には他の相続人の承諾が必要」と書ける?|無断で売却された場合の効力と条項の決め方
まとめ
【箇条書き】※5行を選択して箇条書きの書式を当てる
- 兄弟で共有するアパートは、新しい入居者との契約や売却のたびに全員の同意が要り、1人が動けなくなると止まる
- 2023年4月から、修繕や管理会社の変更は持分の過半数で決められるようになったが、止まるところは残る
- 民事信託でBを受託者にすれば、名義と窓口を一本にして、収益は3分の1ずつ受け取れる
- 決め方(1人で・過半数・3分の2)、お金の流れ、売却の物差し、もしものときを、契約に書いておく
- 契約は、3人が元気で話し合えるうちに。税金・赤字の扱い・受託者の負担も先に確かめる
兄弟で共有しているアパートの決め方を整えたい、民事信託が合うかどうか確かめたい、という段階でも、ご相談いただけます。税務の部分は、税理士と連携して整理します。初回のご相談は無料です。
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