おしどり贈与|配偶者が先に亡くなる場合を想定していますか? ― 名義変更と相続の「順番」で結果が変わる話

おしどり贈与は、要件を満たせば最大2,110万円まで贈与税がかかりません。ただし結果を分けるのは「非課税かどうか」ではなく、夫婦のどちらが先に亡くなるかという順番です。

この記事は、おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)の「使い方」と「順番」に焦点を当てています。婚姻20年以上の夫婦の間で、居住用不動産またはその取得資金を贈与したとき、最大2,000万円と基礎控除110万円まで贈与税がかからない制度です。 制度の名前だけで判断すると、あとから費用や権利関係の整理が難しくなることがあります。実務でつまずきやすいところを、法律・税・暮らしの視点で、先に整理します。 

この記事の内容
・1.おしどり贈与の要点だけ確認する
・2.法律面の効果と、その限界(持ち戻し免除と遺留分)
・3.順番で結果が変わる 配偶者が「あと」か「先」か
・4.説明不足は、税より先にこじれる
・5.贈与と相続を並べて比べる
・この判断の分かれ道
・6.よくあるご質問
・まとめ 

 1.おしどり贈与の要点だけ確認する

  • 何の制度か:婚姻20年以上の夫婦の間で、居住用不動産またはその取得資金を贈与したとき、最大2,000万円+基礎控除110万円(合計2,110万円)まで贈与税がかからない
  • 税のポイント:この特例を使った2,000万円の部分は、相続税の生前贈与加算の対象になりません
  • 民法のポイント:一定の要件で、特別受益の持ち戻し免除が推定され、遺産分割の調整が軽くなる場合があります 

制度のメリットと注意点、要件の詳細(正式名称・居住要件・回数制限・申告の要否など)は、こちらで整理しています。 

贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)とは? ― 制度の趣旨と基本ルールを整理 


2.法律面の効果と、その限界(持ち戻し免除と遺留分) 

おしどり贈与は非課税ばかりが注目されますが、実務で効いてくるのは法律面です。婚姻20年以上の夫婦の間で居住用の建物や敷地を贈与した場合は、遺産分割の計算で、その自宅を特別受益として持ち戻さない方向に働きます(民法903条4項の推定)。その結果、相続開始後の話し合いで、調整が進めやすくなることがあります。 この推定の対象は、居住用の建物とその敷地の贈与です。取得資金(お金)の贈与は、推定の対象には含まれないと考えられています。

ただし、遺留分は別の枠組みです。 

持ち戻し免除が働くのは、「遺産分割の計算(特別受益)」の場面です。相続人の一部が遺留分を問題にすると、「侵害があるかどうか」という別の物差しで整理し直すことになり、贈与が遺留分侵害額請求の対象になり得ます。「制度があるから万全」とは言い切れず、相続人の構成と財産のバランスまで見ておく必要があります。 贈与全体を、税・法律・暮らしの視点で位置づける入口の記事もあります。 

生前贈与は、相続の流れの中で考える|目的・制度・特別受益・遺留分を整理  【1行あける】

3.順番で結果が変わる 配偶者が「あと」か「先」か

おしどり贈与は「配偶者の住まいを守る」文脈で語られやすく、つい、配偶者があとに亡くなる前提で考えてしまいがちです。けれども現実には、年齢差や健康状態によって、順番は入れ替わり得ます。 下の図は、名義を動かしたあとに、配偶者があとに亡くなる場合と、先に亡くなる場合で、何が起きるかを並べたものです。

3-1.名義を動かした時点 非課税でも支出は先に出る 

不動産は、名義を動かした時点で登録免許税がかかります。不動産取得税も課税の対象で、軽減の要件を満たせば、負担が生じない、または小さくなることがあります(土地だけを贈与すると、軽減を受けられないことがあります)。いずれにしても、相続なら要らなかった支出が、ここで先に確定します。 

3-2.配偶者があとに亡くなる場合 住まいの安定につながる 

想定されやすい道筋です。名義変更が一度で終わりやすく、状況によっては持ち戻し免除の推定が、分け方の調整で役に立ちます。結果として、住まいの安定につながるケースがあります。

3-3.配偶者が先に亡くなる場合 ここが盲点になりやすい

いちど配偶者の名義にした不動産が、配偶者の死亡で戻る形になると、あらためて相続と名義変更が発生し、費用と手続きがもう一度必要になります。さらに、子がいないご夫婦では、配偶者の親や兄弟姉妹との親族関係の整理が表に出ることがあります。 あわせて大切なのは、配偶者ご自身の資産や収入(生活の基盤)によって、結論が変わることです。自宅を誰が引き継ぐかは、次のページで整理しています。

自宅相続の選択|配偶者か子か、7つの視点で整理する  

3-4.「配偶者が亡くなったら、子に移せばよいのでは」と考える前に 

たしかに、それは可能です。配偶者の相続で子が自宅を取得すれば、名義は次の世代へ進みます。ただしこのとき、もとの贈与者(たとえば夫)がまだ存命で、その家に住み続けている、という点が、あとから効いてきます。

(1)売るかどうかの判断が、子の側に移ります 

施設への入居や住み替えで自宅を売ることになったとき、売主は名義人である子です。夫がその家に住んでいても、売る・売らない、いくらで、いつ、は子が決めることになります。子が複数いれば全員の足並みが必要ですし、子の側の事情(転居、離婚、先に亡くなるなど)も入り込みます。 

(2)売却時の譲渡所得税が重くなることがあります

居住用財産を売ったときの3,000万円特別控除は、原則として、その家に住んでいる所有者が使う制度です。名義が子で、子がそこに住んでいなければ使えません。さらに、贈与や相続で取得した不動産は、もとの所有者の取得費と取得時期を引き継ぎます。古くから持っている自宅ほど譲渡益が大きく出るため、控除が使えない分が、そのまま税額に跳ね返ります。実際の税額の試算は、税理士と連携して確かめます。 

(3)子がいない場合は、そもそも子に移せません 

配偶者に子がいなければ、配偶者の相続人は、夫と、配偶者の親(いなければ兄弟姉妹)です。自宅の行き先を決めるのに、疎遠な親族との遺産分割協議が必要になります。住み続けるための話し合いから始めることになり、調整が難しくなる場面があります。

子に移すこと自体が悪いのではありません。住み続ける人と、名義を持つ人がずれると何が起きるかを、動かす前に確かめておく、ということです。

 4.説明不足は、税より先にこじれる

 配偶者の安心のために動いたつもりでも、「なぜいま、名義を動かすのか」が家族に共有されないまま進むと、気持ちの面の火種になることがあります。制度として正しいかどうかよりも、納得の作り方が結果を左右する場面は少なくありません。 とくに、あとから遺留分の話が出てきたとき、「聞いていなかった」という一点が、話し合いを硬くします。贈与の理由を先に伝えておくことが、いちばん費用のかからない対策です。

5.贈与と相続を並べて比べる 

おしどり贈与で配偶者に渡す場合と、相続のときに配偶者が相続する場合を、項目ごとに並べます。 

  • 住まいの安心:贈与は、名義で確定しやすい。相続は、遺産分割の結果で決まる
  • 贈与税:贈与は、要件を満たせば最大2,110万円まで非課税。相続は、贈与ではないため対象外
  • 相続税の生前贈与加算:贈与は、この特例の部分は対象外。相続は、そもそも問題にならない
  • 登録免許税:贈与は、原則2.0%。相続は、0.4%
  • 不動産取得税:贈与は、課税(軽減で負担がなくなる、または小さくなることもある)。相続は、非課税
  • 遺産分割(特別受益):贈与は、免除の推定が働き、調整しやすい場合がある。相続は、状況により調整が必要(争点になることも)
  • 遺留分:贈与は、侵害額請求の対象になり得る。相続は、相続財産を基準に問題となり得る
  • 盲点:贈与は、順番が逆だと名義変更が二度になる。相続は、順番の影響はあるが、支出が先に出にくい 

この判断の分かれ道 

 おしどり贈与そのものの手続きは、要件さえ整えば難しいものではありません。贈与契約書を作り、登記を入れ、翌年に贈与税の申告をする。ここで詰まる方は、ほとんどいません。 本当に詰まるのは、その手前です。この家に、この順番で、いま名義を動かす必要があるのか。配偶者の生活の基盤、子や兄弟姉妹との関係、遺言やほかの対策との組み合わせ。判断の分かれ目は、制度の要件ではなく、ご家族の事情の側にあります。 全体の流れの中でいまどこを考えているかは相続の道筋地図で、似た状況でほかのご家族がどう考えて結論を出したかは相続の判断例で確かめられます。

相続の道筋地図 

相続の判断例


 6.よくあるご質問 

 Q.贈与税がかからないなら、先に名義を移したほうが安心ですか。 

 A.住まいの安心は強まりますが、支出は先に確定し、順番が逆になれば、整理がもう一度必要になります。「制度があるから動く」ではなく、順番まで含めて整理してから決めるのが安全です。

 Q.遺言で自宅を配偶者に残す方法とは、どちらがよいですか。

A.優劣ではなく、詰まりどころの違いです。贈与は費用と手続きが先に出て確定性が高く、遺言は費用が後ろで柔軟性が高い。ご家族の状況と、ほかの財産のバランスで決まります。

あわせて読む 

配偶者が先に亡くなる場合のほかにも、おしどり贈与には、先に確かめておきたい点があります。自宅4,000万円・預貯金2,000万円のご家庭を例に、数字で比べた3本の記事です。

相続税はいくら下がるのか:小規模宅地等の特例と比べると、贈与で減らせる金額は思ったより小さい。効くのは、申告が要らなくなるかどうか

いつするか:贈与した半分は、妻が亡くなるまで動かしにくい。1次相続で分け方を決める余地が減る
売るとき:3,000万円控除が2人分になるのは、ご夫婦とも存命のうちに売る場合だけ

おしどり贈与は相続税対策になるのか ― 効くのは税額より、相続税の申告が要らなくなること

おしどり贈与は、いつするかで意味が変わる ― 建物評価の低下・土地の値上がり・2次相続 

おしどり贈与で夫婦共有にすると、売るときに3,000万円控除が2人分になる可能性 


まとめ 

おしどり贈与は、条件が合えば有効な制度です。ただし「制度があるから安心」と言い切れるものではありません。 【本文】※この段落は太字にしてください 遺留分、家族への説明、そして配偶者が先に亡くなる可能性。この3つまで含めて先に整理してから判断すれば、大丈夫です。 

 ご自身の状況に当てはめて考えるのが難しいと感じた段階でも、ご相談いただけます。初回のご相談は無料です。

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