生前贈与、単純に税効果を考えるなら|孫・相続人の配偶者・相続時精算課税110万円。でも、それだけでは決められません

孫・子の配偶者への年110万円と、子への相続時精算課税の年110万円を5年続けると、8,000万円の資産は数字の上では基礎控除4,800万円の内に入ります。ただ、その贈与を本当にやってよいかは、税効果だけでは決められません。 

生前贈与は、数字だけ見るととても分かりやすく見えることがあります。 ただ、相続は税金だけでは決まりません。制度上の見え方を押さえたうえで、その贈与を本当にやってよいのか、生活資金・家族への配慮・遺産分割まで含めて考えることが大切です。 

この記事の内容
・この判断例の前提
・5年続けると、数字の上では相続税0円に見える
・なぜ、そう見えるのか
・それだけでは決められない 確かめたい6つのこと
・この判断例の分かれ道
・あわせて読む
・まとめ 

この判断例の前提

生前贈与の話になると、「結局、誰に渡すと税金の面で効果があるのですか」というところから入ることが少なくありません。そこでまず、制度の見え方を整理するための、かなり単純化した想定例で見てみます。 

  • 資産:8,000万円
  • 相続人:配偶者と子2人の3人。相続税の基礎控除は、3,000万円+600万円×3人=4,800万円
  • 子の家族:子はそれぞれ配偶者がいて、未成年の子(孫)が1人ずついる
  • 前提:ほかの贈与や、財産の増減はないものとする 

5年続けると、数字の上では相続税0円に見える 

  • 子の配偶者と孫へ:子の配偶者2人と孫2人の計4人に、それぞれ年110万円。年440万円
  • 子へ:子2人に、相続時精算課税で年110万円ずつ。年220万円
  • 1年の合計:年660万円
  • 5年の合計:3,300万円。8,000万円の資産は4,700万円になる

数字の上では、基礎控除4,800万円の内に入り、相続税は0円という見え方になります。 

贈与契約は、毎年その年ごとに結びます。はじめから「5年間、毎年110万円」と約束すると、まとめて贈与したと見られるおそれがあるためです。もちろん、これはほかの贈与や財産の変動がないという前提での、制度を説明するための単純化した見方です。 

なぜ、そう見えるのか 

理由は、大きく2つあります。 

  • 子の配偶者や孫への贈与:この人たちは、相続や遺贈、生命保険金など、相続税の対象になる財産を受け取らない限り、亡くなる前の贈与を相続財産に足す「生前贈与加算」の対象になりません
  • 子への相続時精算課税:2024年以後の贈与には年110万円の基礎控除があり、相続のときに足すのは、その控除のあとの額です。子へ年110万円ずつなら、その分は相続のときに足されません 

裏返すと、孫や子の配偶者を生命保険金の受取人にしたり、遺言で財産を渡したりすると、その人への贈与も加算の対象になります。孫が財産を受け取ると、相続税が2割増しになる点にも注意が要ります。 

それだけでは決められない 確かめたい6つのこと

ここまでは、税金の制度の話です。けれども、実際にはここからが本題です。相続税が0円になる見込みが立ったとしても、その贈与を本当にやってよいのか。次の6つを確かめます。

 1.贈与する人の生活資金

老後の生活費、医療費、介護費用、施設費用。いまは余裕があるように見えても、あとから必要になるお金まで先に渡してしまえば、節税のつもりが生活の不安に変わってしまうことがあります。相続対策は、財産を減らすことそのものが目的ではありません。その人が最後まで安心して暮らせることが前提にあるはずです。

2.相続人以外への贈与と、家族の納得

子の配偶者や孫への贈与は、税の制度だけを見ると使いやすく見えることがあります。でも家族の中では、「なぜその人に渡したのか」「なぜいまなのか」という気持ちが残ることがあります。相続人以外への贈与は、税金の話だけで進めるより、家族全体の納得感まで見ておいたほうが、あとで無理が出にくくなります。

3.特別受益は、ほかの援助しだいで表に出る 

子への贈与は、遺産分割の場面で特別受益が気になることがあります。この想定例では、子2人への贈与は同じ額で、ほかに大きな生前贈与や援助がない前提なので、特別受益が前面に出る場面ではありません。 けれども実際には、住宅取得資金や事業資金の援助、学費、過去のまとまった支出などがあることも少なくありません。そうした事情が重なると、「今回の110万円の贈与だけ見れば平等です」では済まなくなり、特別受益が表に出てきます。税の見え方と、遺産分割での見え方がずれてくるところです。 

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 4.多額の贈与に抵抗があるなら、生命保険と組み合わせる 

生前に大きなお金を動かすことに抵抗がある場合、実務では生命保険と贈与を組み合わせて考えることもあります。この例では法定相続人が3人なので、亡くなった方が保険料を負担し、相続人が受け取る死亡保険金には、500万円×3人=1,500万円までの非課税枠があります。生前に多額の贈与をするのは不安だが、現金を残す工夫はしておきたい、というときに出てくる考え方です。 ただし、この非課税枠は、相続人が受け取る死亡保険金が前提です。相続人以外の人が受け取る死亡保険金には使えません。

生命保険で「相続税の申告が不要」になることがある?|非課税枠の“本当の効き方” 


5.相続時精算課税は、一度選ぶと戻れない

相続時精算課税は、使い方によっては便利ですが、軽く選ばないほうがよい制度です。一度選ぶと、その贈与者からの贈与は、暦年課税に戻すことができません。その場ではよく見えても、あとから選び直すことはできません。 なお、暦年課税の生前贈与加算は、3年から7年に延びていく途中です。2026年12月31日までの相続開始なら亡くなる前の3年以内、2027年以後は2024年1月1日以後の贈与について段階的に延び、2031年1月1日以後の相続開始で7年になります(延びた4年分の贈与からは、合計100万円を差し引いて加算します)。

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 6.名義預金になっていないか 

実務で見落としやすいのが、名義預金です。たとえば孫名義の口座に毎年お金を入れていても、通帳や印鑑を祖父母が持ち、実際には祖父母が管理しているだけなら、本当に贈与があったのかが問題になります。未成年の孫への贈与は、親(子とその配偶者)が代わって受け取り、通帳や印鑑も孫の側で管理します。税効果の話だけを先に進めても、実態が伴っていなければ、あとで説明しにくくなります。 

祖父が10歳の孫に預金を贈与した場合、名義預金になるか

 

この判断例の分かれ道 

下の図は、この例の分かれ道を1枚にしたものです。状況、分かれ目、2つの道、ポイントの順に並べています。 

  • 状況:資産8,000万円。相続人は配偶者と子2人(基礎控除4,800万円)。子にはそれぞれ配偶者と、未成年の孫が1人ずついる
  • 分かれ目:税効果の数字だけで、この贈与を5年続けるか
  • 税効果だけで進める:子の配偶者・孫に年110万円ずつ、子に相続時精算課税で年110万円ずつ、5年で3,300万円。資産は4,700万円になり、相続税0円に見える。ただし、生活資金・家族の納得・名義預金の確かめが抜けたまま
  • 全体のバランスで決める:贈与する人の生活資金を先に確保し、渡す相手と額を決める。家族の納得とほかの援助(特別受益)も並べ、抵抗があれば生命保険と組み合わせ、名義預金にしない。この例の答えは、こちらです

本当に詰まるのは、数字の答えが先に出てしまうことです。相続税0円という結果が見えると、贈与する人の暮らしや家族の気持ちが、あとから付いてくるものに見えてしまいます。分かれ目は、相続税0円を目的にするか、結果として受け取るかです。 贈与する人の生活は大丈夫か。先渡しは本当に必要か。家族の納得は得られるか。ほかの援助も含めて全体のバランスは取れているか。名義だけの預金になっていないか。相続時精算課税を選ぶ重みを分かったうえで進めているか。数字を見たうえで、それでもなお全体のバランスを考える。そこから先が、本当の意味での相続対策です。 ほかのご家族がどう決めたか、そして自分たちは何を決める必要があるかは、次の2つのページに整理しています。 

相続の判断例 

相続の道筋地図 


あわせて読む 

  • 生前贈与の全体像:誰に、いくら、どの方法で、がまだ固まっていないときは、生前贈与全体の入口から
  • 贈与手続:贈与契約書、振込、名義預金にならないための進め方など、手続きの面から確かめたいときに
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施設に入った母の自宅を売るなら、信託か贈与か|3,000万円控除・費用・名義で比べる 


まとめ 

  • 子の配偶者・孫への年110万円と、子への相続時精算課税の年110万円を5年続けると、数字の上では相続税0円に見える
  • 子の配偶者・孫は、相続や遺贈・生命保険金を受け取らない限り加算されず、相続時精算課税の年110万円の基礎控除分も足されない
  • でも、贈与する人の生活資金・家族の納得・特別受益・名義預金を確かめずに決めてはいけない
  • 贈与に抵抗があれば、生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人の数)と組み合わせる考え方もある
  • 相続時精算課税は一度選ぶと戻れない。相続税0円は、目的ではなく結果 

誰に、いくら、どの方法で渡すかがまだ決まらない段階でも、ご相談いただけます。贈与税・相続税の試算は、税理士と連携して行います。初回のご相談は無料です。


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