相続の相談は司法書士か税理士どちらか?
相続の相談先は、司法書士と税理士の「どちらか一方」に絞る必要はありません。相続登記は司法書士、相続税の申告は税理士の仕事ですが、そのあいだにある「どう分けるか」は、両方にまたがるからです。
「司法書士と税理士、どちらに相談すればよいのだろう」。相続の相談を始めるとき、多くの方が最初に迷うところだと思います。大切なのは資格の名前そのものよりも、相続全体を見て、必要な専門家につなげてくれるかどうかです。
相続登記は司法書士、相続税の申告は税理士と、それぞれに専門分野があります。ただし、実際の相続は、登記だけ、税金だけで終わるものではありません。たとえば、次のようなことも決める必要があります。
- 誰がどの財産を取得するのか
- 配偶者の生活をどう守るのか
- 不動産を今後どう管理し、将来どう処分するのか
- 相続税や代償金を支払う資金を確保できるのか
こうした問題は、法務・税務・暮らし・ご家族の想いが重なっています。そのため、資格の違いだけで相談先を決めるのではなく、相続全体をどこまで見てくれる専門家か、という視点が大切です。
この記事の内容
・司法書士と税理士、それぞれの役割
・税理士に依頼するメリット
・税理士に最初に依頼する場合の注意点
・司法書士に依頼するメリット
・司法書士に最初に依頼する場合の注意点
・どちらに相談しても同じ、とは限らない
・法務と税務を行き来しながら、分け方を考える
・専門家選びで確認したい4つのこと
・分け方が決まったあとでは、見直しが難しい
・あわせて読む
・まとめ どちらに相談するかより、どのように進めるか
司法書士と税理士、それぞれの役割
まずは、司法書士と税理士の基本的な役割を整理してみましょう。
下の図は、2つの役割と、そのあいだにある「どう分けるか」を並べたものです。
- 司法書士:不動産の名義変更である相続登記を中心に、相続人調査、遺産分割協議書の作成、遺産整理、遺言、民事信託(家族信託)、成年後見など、法務と相続手続きの実務を担います
- 税理士:相続財産の税務上の評価、相続税額の計算、特例の適用、相続税の申告、税務調査への対応、2次相続を含む税の試算などを担います
相続登記の代理は司法書士、相続税申告の代理は税理士の専門業務です。もっとも、現実の相続では、登記と税務のあいだにある「どのように遺産を分けるか」という判断が、最も難しいことがあります。
遺産の分け方によって、相続税額、特例の適用、将来の不動産管理、配偶者の生活、相続人間の公平感が変わるためです。
税理士に依頼するメリット
税理士に依頼する大きなメリットは、相続税申告を見据えて、財産評価・税額・特例・納税資金を確認できることです。特に、次のような相続では、早めに税理士へ相談する必要性が高くなります。
- 相続財産が基礎控除を超え、相続税申告が必要になる可能性がある
- 相続財産が8,000万円を超えるなど、税額や分け方の影響が大きくなりやすい
- 小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使う予定がある
- 土地が複数ある、形状が複雑など、不動産評価が難しい
- 名義預金、過去の生前贈与、タンス預金、海外資産などがある
- 相続時精算課税や民事信託を利用している
- 相続税申告に必要な資料収集や手続きを任せたい
- 事業承継や非上場株式など、評価の難しい財産がある
- 税務調査で指摘を受けないか不安がある
税理士に相談すれば、単に相続税を計算するだけでなく、複数の遺産分割案について税額を比べることもできます。たとえば、配偶者が多く相続する場合と、子どもにも分ける場合とで、1次相続と2次相続を通じた税負担がどのように変わるかを試算できます。
また、不動産を取得する人が相続税を支払えるか、預貯金や売却代金から納税資金を確保できるかなど、相続税とお金の流れを数字で確認できることも大きな利点です。
いつ税理士へ相談すればよいかは、次の記事で整理しています。
税理士に相続税の相談をするタイミングはいつ?|先に整理したいことと、早めに相談したいケース
税理士に最初に依頼する場合の注意点
一方で、税理士に依頼すれば、相続全体の問題がすべて解決するとは限りません。
税理士の中心業務は、相続財産を税務上評価し、税額を計算して申告することです。そのため、遺産分割の検討についても、「どのように分ければ相続税を抑えられるか」という税務上の視点が中心になりやすい面があります。これは、税理士の役割から考えれば自然なことです。
ただし、相続税が最も少なくなる分け方が、必ずしもそのご家族にとって最もよい分け方とは限りません。
税額のほかにも、次のようなことを確かめておきたいところです。
- 配偶者が自宅に住み続けられるか
- 収益不動産を取得した人が管理や修繕を続けられるか
- 代償金、相続税、専門家費用を支払う資金があるか
- 不動産と預貯金の取得額に差があっても、相続人が納得できるか
- 将来、不動産を売却、建替え、共有解消できるか
- 2次相続のときに、子ども同士で問題が生じないか
こうした問題は、税務だけではなく、相続後の暮らし、不動産の法的関係、家族の公平感にも関わります。
また、税理士事務所によっては、相続人の戸籍収集、遺産分割協議書、相続登記、金融機関の解約や名義変更などは、相続人自身または別の専門家が進めることになります。
税理士に最初に相談する場合は、税額や申告だけでなく、相続後の暮らしや不動産の扱いまで考えてくれるか、必要に応じて司法書士と連携できるかを確認しておくと安心です。
「税額だけでは分け方を決めない」という判断を、実際の事例で追った判断例もあります。
相続税が一番安い分け方を、あえて選ばなかった ― 自宅の時価・遺留分・家族の想いから
司法書士に依頼するメリット
司法書士に依頼するメリットは、相続人・財産・遺言・不動産の状況を整理し、実際の手続きをどの順番で進めるかを組み立てやすいことです。相続税がかかるかどうかにかかわらず、次のような場合は、司法書士が最初の相談窓口になりやすいでしょう。
- 何から手をつければよいのかわからない
- 戸籍を収集して相続人を確定したい
- 遺言書の内容と相続手続きの関係を確認したい
- 不動産を誰が相続するか迷っている
- 遺産分割協議書と相続登記をまとめて進めたい
- 預貯金や有価証券を含む遺産整理を任せたい
- 2次相続や将来の不動産売却も考えておきたい
- 遺言、贈与、民事信託、成年後見なども含めて相談したい
司法書士は、不動産の権利関係、遺産分割協議書の内容、相続登記との整合性を確認しながら、ご家族が決めた内容を法的に安定した形に整え実際の名義変更につなげる役割を担います。
遺産整理業務を取り扱う司法書士であれば、相続人調査、財産調査、必要書類の収集、金融機関への手続きなど、相続手続き全体を実務面から支えることもできます。
また、不動産については、今の名義を変えるだけではなく、将来売却しやすいか、共有に問題がないか、配偶者が安心して住み続けられるかといった点も含めて考える必要があります。
こうした手続きの前後をつなぎ、相続全体の道筋を整理しやすいことが、司法書士に最初に相談する利点です。
司法書士に最初に依頼する場合の注意点
司法書士に相談する場合にも、注意したい点があります。
司法書士事務所によっては、相談の中心が相続登記となり、「誰が不動産を相続するかは、ご家族で決めてください」「分け方が決まったら、遺産分割協議書と相続登記を行います」という対応にとどまることがあります。
相続人の間ですでに分け方が決まっている定型的な相続であれば、それで問題はありません。しかし、相続税がかかる可能性がある相続や、複数の不動産がある相続では、税務上の確認をしないまま遺産分割を決めると、後から思わぬ問題が生じることがあります。
- 使えると思っていた小規模宅地等の特例が使えない
- 配偶者の税額軽減を優先した結果、2次相続の税負担が増える
- 不動産を取得した人に納税資金がない
- 代償金を支払った後に、相続税や諸費用の負担が残る
- 売却予定の不動産について、譲渡所得税まで検討されていない
- 遺産分割後に税理士へ相談し、分け方を見直したくなる
つまり、司法書士に最初に相談した場合でも、税務の確認が後付けになると、思わぬ税負担や資金不足が生じる可能性があります。
司法書士に依頼する際は、相続登記の手続きだけでなく、次の点を確認することが大切です。
- 相続税がかかる可能性を確認しているか
- 分け方を決める前に税理士へつなぐ仕組みがあるか
- 税務と法務を並行して整理できるか
- 相続後の暮らしや不動産の扱いまで見ているか
なお、相続人同士に意見の対立がある場合、司法書士は、中立的な立場で事情を整理したり、合意した内容を遺産分割協議書にしたりすることはできますが、一方の相続人の代理人として、ほかの相続人と交渉することはできません。交渉や紛争の解決が必要な場合は、弁護士への相談・依頼が必要です。当事務所では、必要に応じて弁護士をご紹介します。
どちらに相談しても同じ、とは限らない
司法書士と税理士は、競合する関係ではありません。それぞれに異なる専門分野があり、相続の内容に応じて役割を分担する関係です。
ただし、どの司法書士、どの税理士に相談しても、同じ結論になるわけではありません。
税理士に相談しても、税額計算と申告を中心に進む事務所もあれば、ご家族の状況や2次相続、不動産の将来まで一緒に考える事務所もあります。
司法書士に相談しても、相続登記だけを行う事務所もあれば、財産調査や遺産整理、税理士との連携を含め、相続全体の道筋を整理する事務所もあります。
したがって、大切なのは資格の名前だけではなく、最初に相談した専門家が、自分の専門分野だけで判断せず、相続全体を見て必要な専門家につなげられるか、ということです。
法務と税務を行き来しながら、分け方を考える
相続税がかかる可能性のある相続では、最初から税務だけ、法務だけで分け方を決めるのではなく、法務と税務を行き来しながら検討することが理想です。相続を整理する流れを、一つの例として挙げます。
- 1.整理する:相続人、財産、遺言、不動産の状況を整理する
- 2.希望を聞く:ご家族の希望や今後の暮らしを確認する
- 3.税を確かめる:税理士が相続税額、特例、納税資金を確認する
- 4.比べる:複数の遺産分割案を、法務・税務の両面から比べる
- 5.決める:ご家族で分け方を決める
- 6.手続きを進める:遺産分割協議書、相続登記、相続税申告を進める
たとえば、税理士の試算では配偶者が自宅を取得したほうが1次相続の税額が少なくなるとしても、配偶者が施設へ入居する予定であれば、自宅の管理や将来の売却について別の検討が必要になります。
反対に、法的には長男が不動産を取得する内容で問題がなくても、長男に相続税や代償金を支払う資金がなければ、その分け方を実行することは難しくなります。
このように、法律上できること、税務上有利なこと、実際に続けられることを重ね合わせて考える必要があります。
相続税評価額と、実際に分けるときの時価の違いなど、「税額だけでは分け方が決まらない」理由は、次の記事で図とともに整理しています。
税額だけでは、分け方は決まらない|相続税・自宅から考える遺産分割
専門家選びで確認したい4つのこと
依頼先を決めるときは、肩書きだけではなく、その事務所の姿勢や進め方を確認してみてください。
- 知識:自分の専門分野だけでなく、相続法・税務・不動産・信託など、関連分野についても理解しているか
- 経験:相続人や財産の状況が異なる実際の案件を扱い、手続きの流れや注意点を理解しているか
- 俯瞰力:登記や申告だけではなく、相続全体を一枚の地図として整理できるか
- 調整力:ご家族の想いを尊重しながら、税理士、司法書士、不動産会社など、必要な専門家と協力できるか
これらを備えた事務所であれば、司法書士、税理士のどちらを最初の窓口にしても、必要な支援につながりやすくなります。
分け方が決まったあとでは、見直しが難しい
相談先の答えは、はっきりしています。相続登記は司法書士、相続税の申告は税理士。そして、どちらを最初の窓口にしても、分け方を決める前に、もう一方の専門家の確認を通すことです。当事務所では、最初に相続人、財産、不動産、ご家族のご希望を整理し、相続税が関係する場合には、分け方を決める前に税理士と連携して確認する進め方を大切にしています。
本当に詰まるのは、分け方が決まったあとで、もう一方の専門家に相談することです。遺産分割協議書に署名したあとで、税の負担や納税資金の不足、相続後の暮らしの問題に気づいても、分け方をやり直すのは簡単ではありません。やり直すと、新たに贈与税などがかかることもあります。
判断が分かれるのは、相続税がかかる見込みがあるか、不動産を誰がどう持つかによって、法務と税務をどの順に、どこまで並行して確かめるか、という点です。全体の流れの中でいまどこを考えているかは相続の道筋地図で、似た状況でほかのご家族がどう決めたかは相続の判断例で確かめられます。
あわせて読む
- 申告が必要か:小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減で相続税が0円になっても、申告が必要になることがあります
- かかる・かからない境界線:相続税がかかるかどうか、判断が揺れやすいところを整理しています
- 8,000万円を超えそうなとき:申告の前に、相続全体を整理する進め方です
- 財産調査:相談の前に、何が遺産かをそろえる方法です
- 小規模宅地等の特例:自宅や事業用地の評価を減らす特例です
- 司法書士所感:相続は誰に相談するか、全体を調整する役の大切さを書いています
相続財産が8,000万円を超えそうなときの進め方|申告の前に相続全体を整理する
相続財産の把握がいちばん大切。相続税・贈与税で失敗しないための実務ガイド(司法書士視点)
小規模宅地等の特例|実家もアパートも、相続税を抑えるための必須知識(司法書士目線)
まとめ どちらに相談するかより、どのように進めるか
相続税申告が必要な場合や、財産評価が複雑な場合には、税理士の力が欠かせません。一方で、相続人や財産を整理し、遺産分割協議書、相続登記、金融機関の手続きを進める場面では、司法書士の役割が大きくなります。
ただし、税理士に相談した場合には、分け方が税務主導になりすぎていないか。司法書士に相談した場合には、税務の確認が後付けになっていないか。それぞれ注意が必要です。
大切なのは、司法書士か税理士かという二者択一ではありません。
法務、税務、暮らし、ご家族の想いを一緒に整理し、必要な専門家と協力しながら進められるか。その視点で相談先を選ぶことが、相続を安心して進めるための一つの目安になると思います。
司法書士と税理士のどちらに相談するか迷っている段階でも、ご相談いただけます。相続税が関係する場合は、税理士と連携して進めます。初回のご相談は無料です。
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