相続財産の把握がいちばん大切。相続税・贈与税で失敗しないための実務ガイド(司法書士視点)
相続で最初に大切なのは、「いくらか」より前に「何があるか」をそろえることです。不動産・預貯金・株式・生命保険・借入金・過去の贈与の6つを、手元の手がかりと、まとめて調べる制度の両方で確かめていきます。
相続のご相談では、「相続税がかかるのか」「申告が必要か」といったご質問を多くいただきます。もちろん相続税の確認は大切ですが、その前に、もっと大切な最初の一歩があります。
それが、相続財産の全体像を正しく把握すること(財産調査)です。ここが整うだけで、相続税・遺産分割・名義変更まで、相続全体の流れがかなりスムーズになります。
この記事の内容
・財産調査とは何か
・まず確認したい財産と、その調べ方 ・財産調査のあと、次に進む順番
・司法書士が関われるところ
・財産調査が終わらないと、どれも決まらない
・あわせて読む
・まとめ
財産調査とは何か
相続の現場では、次のようなことが少なくありません。
- いくつかの銀行口座が見つかっていない
- 複数の証券会社を使っていた
- ネット銀行や証券アプリの痕跡はあるが、手がかりが少ない
- 生命保険がありそうだが、保険証券や契約内容が見当たらない
- 借入れや保証人になっていたかどうかが分からない
- 不動産の現況や権利関係がはっきりしない
- 過去の贈与や名義預金が問題になりそう
こうした情報を一つずつ集めて、「何が相続財産で、どこにあって、どう見ればよいか」を整理していく作業が、財産調査です。プラスの財産だけでなく、借入金などのマイナスの財産も含みます。
財産調査が整わないまま相続税や遺産分割に進むと、あとから財産や借入金が見つかる、評価の前提が違っていた、家族の認識がずれていた、ということが起こりやすくなります。
まず確認したい財産と、その調べ方
財産調査は、手元にある書類や郵便物から手がかりを探すことと、制度を使ってまとめて調べることの両方で進めます。下の図は、財産の種類ごとに、手元で探す手がかりと、まとめて調べる方法を並べたものです。
- 不動産:固定資産税の納税通知書・権利証から探し、所有不動産記録証明(法務局)と名寄帳(市区町村)で確かめる
- 預貯金:通帳・キャッシュカード・郵便物・アプリ・引落しから探し、金融機関ごとの残高証明書と相続時口座照会で確かめる
- 株式・投資信託:取引報告書・配当金の通知・株主総会の案内から探し、ほふりへの開示請求と所有株式数証明書で確かめる
- 借入金・保証:ローンの引落し・督促状・契約書から探し、信用情報機関3つ(CIC・JICC・全国銀行個人信用情報センター)への開示請求で確かめる
- 過去の贈与・名義預金:家族名義の通帳・贈与契約書・まとまった出金から探し、預金の取引履歴をさかのぼって確かめる
- 生命保険:保険証券・保険料の引落し・保険料控除の証明書から探し、生命保険契約照会制度で確かめる。共済・団体保険は個別に
不動産
不動産は、登記簿にあるものだけを見れば足りるとは限りません。手がかりは、固定資産税の納税通知書(課税明細書)、権利証や登記識別情報、売買契約書などです。
2026年2月から、法務局の所有不動産記録証明制度で、亡くなった方の名義で登記されている不動産を、全国分まとめて一覧で確認できるようになりました。ただし、登記の住所や氏名が古いままだと出てこないことがあり、未登記建物は登記がないので載りません。市区町村の名寄帳(固定資産課税台帳)には、未登記建物や、税額が小さいために納税通知書に載らない土地なども出てくることがあるので、あわせて確かめます。
漏れやすい不動産、未登記建物、借地権は、それぞれ次の記事で整理しています。
登記されていない(未登記)建物の相続はどうする?固定資産税台帳と登記の整理ガイド
借地権の相続で「見落としやすいポイント」を整理|実務でよくある勘違いと確認事項
預貯金
預貯金は、通帳やキャッシュカードが見つかれば十分、とは限りません。複数の金融機関を使っていた、ネット銀行がある、ゆうちょ銀行が別にある、ということも少なくありません。郵便物・メール・スマホアプリ・口座引落しの履歴も手がかりになります。
金融機関が分かったら、亡くなった日の残高証明書と、必要に応じて取引履歴を請求します。支店が分からなくても、同じ金融機関の中の口座はまとめて調べてもらえることが多く、ゆうちょ銀行でも、貯金の有無をまとめて照会できます。
2025年4月からは、預金保険機構の相続時口座照会も使えます。相続人が1つの金融機関に申し込むと、亡くなった方のマイナンバーが付けられた口座を、ほかの金融機関の分までまとめて調べられます。ただし、マイナンバーを付けていなかった口座は出てこないので、これだけで「全部」とは言えません。
亡くなる前後の引き出しが見つかったときの整理と、ゆうちょ銀行の小口の手続きは、次の記事で整理しています。
相続開始前後・当日の預金の整理|相続で迷いやすいお金の動きを時間の流れで整理
ゆうちょ銀行の相続手続|100万円以下の簡易払戻しと必要書類
株式・投資信託
株式は、証券会社の書類が手元にあっても、それだけで全体が見えているとは限りません。手がかりは、取引報告書・年間取引報告書、配当金計算書、株主総会の案内などの郵便物です。
口座のある会社が分からないときは、証券保管振替機構(ほふり)に開示を請求すると、亡くなった方が口座を持っていた証券会社や信託銀行などが分かります。証券会社には残高証明書を、株主名簿管理人(信託銀行など)には所有株式数証明書を請求すると、単元未満株や、証券口座の外にある特別口座の株まで確かめられます。投資信託も、同じ証券会社や銀行の残高証明書で確かめます。
口座のある会社の調べ方、株数の確かめ方、特別口座は、次の記事で整理しています。
株式相続の調査|証券会社・信託銀行がわからない場合はどうするか?ー口座のある会社の調べ方
株式相続で本当に何株あるのかを確認する方法|残高証明書・配当書類・所有株式数証明書の見方
特別口座の株式とは?|証券口座にない株が見つかったときの相続手続き
生命保険
生命保険は、そもそも契約があるのか、受取人は誰か、死亡保険金なのか解約返戻金なのかを整理する必要があります。手がかりは、保険証券、通帳の保険料の引落し、保険会社からの郵便物、年末調整や確定申告の保険料控除の証明書などです。
保険証券が見当たらないときは、生命保険協会の生命保険契約照会制度で、加盟している生命保険会社に契約があるかをまとめて照会できます。共済や勤務先の団体保険は、この照会の対象外なので、それぞれに問い合わせます。
照会を申し込めるのは、亡くなった方の法定相続人などです。申込みの方法と必要な書類は、生命保険協会のホームページで確かめられます。
借入金・保証
借入金などのマイナスの財産も、調査の対象です。手がかりは、通帳のローンの引落し、督促状や郵便物、契約書、クレジットカードなどです。
信用情報機関に開示を請求すると、亡くなった方の借入れやクレジットの契約を確かめられます。信用情報機関は3つあり、主に扱う先が違うので、3つともに請求します。
- CIC:クレジットカード会社・信販会社など
- JICC(日本信用情報機構):消費者金融など
- 全国銀行個人信用情報センター:銀行・銀行のカードローンなど
開示を申し込めるのは、亡くなった方の法定相続人などです。どの機関も、戸籍などを添えて郵送で申し込みます。
ただし、個人からの借入れや、保証人になっていた債務は、信用情報には出てこないことが多くあります。契約書や郵便物、ご家族の話もあわせて確かめます。
借入金が多い場合は、相続放棄を考えることになります。相続放棄は、原則として相続が始まったことを知ってから3か月以内で、それまでに財産に手を付けると放棄できなくなることがあります。
開示の申込み方法と必要な書類は各機関のホームページで、相続放棄で気をつけたいことは次の記事で確かめられます。
JICC(日本信用情報機構):二親等以内の血族・法定相続人等による開示
過去の贈与・名義預金
財産調査では、いま残っている財産だけでなく、過去のお金の動きも確かめる必要があることがあります。家族名義なのに亡くなった方が管理していた通帳、贈与契約書、まとまった出金などが手がかりです。預金の取引履歴をさかのぼって確かめると、名義預金、生前贈与、相続税の加算、特別受益などにつながる動きが見えてきます。
暦年贈与と相続税:生前贈与加算(持ち戻し)― 110万円・7年・「誰が対象か」
特別受益とは?具体例と判断基準を相続専門司法書士がやさしく解説
財産調査のあと、次に進む順番
財産の全体像が見えてきたら、次は評価と申告の要否、そして分け方へ進みます。
- 1.財産調査:何が遺産か(借入金を含む)をそろえる
- 2.評価:不動産や株式を、いくらで見るかを確かめる
- 3.申告の要否:相続税の申告が必要かどうかを見る
- 4.遺産分割・名義変更:分け方を決め、名義を移す
申告が必要かどうか、土地と建物の価格の見方は、次の記事で整理しています。
ひとりでできる土地評価(相続税編)|路線価・倍率・評価額の見方を整理
建物はいくらで考える?|自宅・収益物件・マンションの遺産分割と価格の見方
司法書士が関われるところ
相続では、税理士は相続税の評価・計算・申告の専門家です。一方、司法書士は、財産の調査・相続関係の整理・名義変更、そして手続き全体の橋渡しに強みがあります。ほふりや所有株式数証明書、相続時口座照会、信用情報機関の開示などの調査も、ご依頼を受けて進められます。
実務では、財産調査、相続関係の整理、相続税の判断、名義変更や分け方、という流れで進むことが多く、司法書士はその入口から関わる場面が少なくありません。
司法書士は、何が遺産なのかを整理し、必要に応じて税理士などの専門家につなぐ橋渡し役として関わりやすい立場にあります。
司法書士と税理士のどちらに相談するかは、次の記事で整理しています。
相続の相談は司法書士と税理士のどちらへ?|それぞれのメリットと注意点
財産調査が終わらないと、どれも決まらない
財産調査のやり方は、はっきりしています。財産の種類ごとに、手元の手がかりを集め、所有不動産記録証明、相続時口座照会、ほふり、生命保険契約照会、信用情報機関の開示といった制度でまとめて確かめる。調べる仕組みは、以前よりずっと増えています。
本当に詰まるのは、財産調査を終わらせないまま先へ進んでしまうことです。相続放棄の期限(3か月)や相続税の申告期限(10か月)に追われて、見つかった財産だけで話を進めると、あとから財産や借入金が見つかったときに、分け方や申告をやり直すことになります。
判断が分かれるのは、どこまで調べたら「これで全部」と言えるか、そして、期限との兼ね合いでどこまで先に進めるか、という点です。全体の流れの中でいまどこを考えているかは相続の道筋地図で、似た状況でほかのご家族がどう決めたかは相続の判断例で確かめられます。
あわせて読む
- 相続手続きガイド:財産調査のあと、手続き全体の流れに戻って確かめたい方へ
- 株式相続の全体像:口座・株数・配当・税金まで、株式の手続きを一通り整理しています
- 法と税のズレ早見:法と税、評価と時点が混ざってきたときに、全体を見直したい方へ
まとめ
- 相続で最初に大切なのは、「いくらか」より前に「何があるか」をそろえること
- 不動産・預貯金・株式と投資信託・生命保険・借入金と保証・過去の贈与と名義預金の6つを見る
- 手元の手がかりと、所有不動産記録証明・相続時口座照会・ほふり・生命保険契約照会・信用情報機関の開示の両方で確かめる
- 財産調査が整ってから、評価・申告の要否・分け方・名義変更へ進む
- 司法書士は、何が遺産かを整理し、税理士などにつなぐ橋渡し役
財産調査、遺産分割、相続税の判断など、どこから進めてよいか分からない段階でも、ご相談いただけます。相続税の申告が必要な場合は、税理士と連携して進めます。初回のご相談は無料です。
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