2026年9月司法書士所感|相続は氷山の一角。見えている財産の、その下にあるもの
相続争いが深刻になったとき、弁護士はいちばん頼りになる存在です。そのうえで、依頼する前に一度だけ考えておきたいことがあります。
相手方との交渉から調停、裁判まで、依頼者を法律面から守ってくれる、いわば相続争いにおける最強の砦です。深刻な対立になったとき、弁護士以外に頼める人はいません。 ただ、弁護士に依頼すれば必ず円満に解決する、というわけではありません。
人生いろいろ、相続もいろいろ。そして、弁護士もいろいろです。
相続の話し合いでやり取りされるのは、預金や不動産の分け方です。けれども、それは水面の上に出ている一角にすぎません。その下に何が沈んでいるかを見ないまま進めると、まとまるはずだった相続が、こじれてしまうことがあります。
弁護士にも、それぞれ得意分野がある
弁護士にも、それぞれ得意分野があります。相続案件を数多く扱っている方もいれば、企業法務や交通事故、離婚、刑事事件など、別の分野を中心に扱っている方もいます。 もちろん、相続を専門としていないから悪いということではありません。しかし、相続には、法律の知識だけでは捉えきれない部分があります。
相続は、家族の感情の総決算でもある
相続は法律問題であると同時に、家族の感情の総決算でもあるからです。
「長男ばかり大切にされた」
「親の介護をしたのは自分なのに、何もしなかった兄弟と同じ相続分なのは納得できない」
「昔から妹だけが親に援助してもらっていた」
こうした思いが、親が亡くなったことをきっかけに一気に表に出てくることがあります。 表面上は預金や不動産の分け方を争っているように見えても、本当に争っているのは、お金だけではないのかもしれません。 「自分の気持ちを分かってほしい」。「これまでの苦労を認めてほしい」。そんな長年の思いが、その奥に隠れていることがあります。
まとまるはずだった相続が、こじれてしまうとき
ところが、一方の話だけを前提に話が進むと、相手方も身構えます。 相続人それぞれの生活状況や、親との関係、介護への関わり方、これまでの援助、そして相続後の暮らし。そこが確認されないまま、法律上の権利だけがやり取りされると、まとまる可能性があった相続まで、こじれてしまうことがあります。 もちろん、弁護士は依頼者の代理人です。依頼者の利益を守ることが仕事ですから、相手方との間に立って完全に中立でいることはできません。 また、すでに相続人同士の主張がまったくかみ合わず、話し合いではどうにもならない段階であれば、権利をはっきり主張し、法的な手続きに進むことも必要です。
大切なのは、その段階に至る前です。
まだ少しでも話し合う余地があるなら、いきなり権利の主張から入るのではなく、まずは相続人それぞれの事情を確認し、何とかまとまる道がないかを探してみる。それも、相続を解決するための大切な考え方だと思います。
相談するときに、もう一つ聞いてみてほしいこと
弁護士に相談するとき、多くの方がまず尋ねるのは、次のことです。 「法律上、私はいくら請求できますか」 当然の質問ですし、まず確かめておくべきことでもあります。自分の権利の範囲が分からないままでは、話し合いの土台ができません。 そのうえで、もう一つ、聞いてみてほしいことがあります。
「この家族の場合、どのように進めれば、できるだけ傷を深くせずに解決できますか」
その問いに耳を傾け、依頼者の話だけでなく、相手方の背景や家族全体の関係まで想像しながら解決方法を考えてくれる弁護士であれば、心強い存在になるはずです。
相続という氷山の、水面の下にあるもの
下の図は、相続を氷山にたとえ、水面の上に見えているものと、水面の下にあるものを分けたものです。
- 水面の上:法定相続分、遺留分、財産の額、そして交渉や調停。争いの表面として、外から見える部分です
- 水面の下:家族の歴史、介護、生活、お金、親から受けた愛情への思い、兄弟姉妹の長年の関係など。外からは見えにくく、何十年もかけて、少しずつ沈んでいったものです
少し離れた船の上から、水面の下まで含めて相続の全体を見る。それが司法書士の役割だと思っています。 水面に見えている部分だけで判断するのではなく、その下にある相続全体を見ながら解決していく。一人の相続実務家として、そう願っています。
〔補足〕弁護士をご紹介するタイミングについて
ご相談の最初から弁護士をご紹介する、ということはしておりません。まずは状況を伺い、事実関係と資料を整理して論点をはっきりさせる。それだけで落ち着く相続も、少なくありません。ご一緒に進めるなかで信頼関係を築いたうえで、それでも調整の域を超えると分かったときに、経緯と資料を整理しておつなぎしています。 相続の全体を見渡して、誰にどう入ってもらうか。その考え方は、8月の所感に書きました。
2026年8月司法書士所感|相続の現場で感じる「ネットワークマンション5階建て」
最後に ― 誰に相談するか、その人が相続をどう見ているか
弁護士がいれば、すべてが解決するわけではありません。 けれども、家族の背景まで汲み取りながら力を尽くしてくれる弁護士に出会えれば、争いを終わらせるだけでなく、その後の人生を立て直すための大きな支えになると思います。 人生いろいろ、相続もいろいろ、弁護士もいろいろ。 だからこそ、「誰に相談するか」だけでなく、「その人が相続をどのように見ているか」も、少しだけ考えてみてはいかがでしょうか。 10月の所感では、見えている財産の下にあるものも含めて、法・税・暮らし・想いのいくつもの尺度で確かめ、最後は全体の釣り合いを見る、ということを書きました。
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