投資信託の相続|株式と何が違う?評価・移管・解約の手続きを整理
投資信託の相続税評価は「亡くなった日に解約したら手取りでいくら戻るか」が基準で、上場株式のように4つの価額から最も低いものを選ぶ仕組みではありません。引き継ぐときも、相続人が使う金融機関がその投資信託を扱っていなければ、希望する口座へ移管できないことがあります。
残高証明書を取り寄せたら、株式の下に見慣れない名前の銘柄が並んでいた。
投資信託は、株式と同じ証券口座の中にあることも多い財産です。ところが、手続きも、相続税評価の仕方も、売却時の税金の考え方も、株式とは少し違います。
この記事では、投資信託ならではの注意点に絞って整理します。
この記事の内容
・投資信託が株式と違う3つのところ
・共同相続人の一人が「自分の分だけ」解約することはできません
・手続きの分かれ道 移管するか、解約するか
・相続税評価は「解約したら手取りでいくら戻るか」
・分配金 普通分配金と元本払戻金の違い
・相続開始後に入った分配金はどうなる?
・遺産分割協議書にどう書くか
・NISA口座の投資信託はそのまま引き継げません
・売却するときの取得費と個別元本
・見落としやすいMRF・MMF ・投資信託の相続で本当に詰まるところ
・あわせて読む
・4つの視点で整理すると
投資信託が株式と違う3つのところ
【本文】 下の図は、上場株式と投資信託の違いを、相続税評価・数量の単位・現金化のしかたの3つの点で並べたものです。
- 相続税評価:上場株式は、死亡日の終値と、死亡月・前月・前々月の終値の月平均額のうち、最も低い価額で評価します。投資信託は、死亡日の基準価額を基礎に、解約したとした場合に差し引かれる所得税等の相当額や、信託財産留保額・解約手数料等を差し引いて評価します。
- 数量の単位:上場株式は「株」、投資信託は「口」で数えます。分配金再投資型では、分配・再投資の際に口数が増えることがあります。
- 現金化のしかた:上場株式は、相続人名義の口座に移したうえで市場で売却します。投資信託も、相続人名義の口座に移したうえで解約するのが基本ですが、金融機関によっては、相続手続きの中で解約して代金を受け取れる場合もあります。
ここでいう投資信託は、上場していない一般的な投資信託のことです。ETFやREITのように上場しているものは、上場株式と同じ方法で評価します。
実務でとくに気をつけたいのは、一つ目の相続税評価です。証券会社の残高証明書に出ている金額は、株式なら死亡日の終値、投資信託なら税金相当額や手数料等を差し引く前の金額であることが多く、相続税の申告で使う評価額とは一致しません。
証明書の数字をそのまま書き写すと、評価額が高めになり、相続税を多めに申告してしまうことがあります。
共同相続人の一人が「自分の分だけ」解約することはできません
まず前提として押さえておきたいことがあります。
「私は2分の1の相続人だから、投資信託も半分だけ先に解約できるのでは」と考えたくなりますが、共同相続の場合にはそのようには扱われません。
投資信託の受益権は、相続が始まっても当然に法定相続分で分かれるものではないと、最高裁が判断しています(最高裁平成26年2月25日判決)。個人向け国債も同じ考え方です。
そのため、共同相続の場合には、まず遺産分割協議や遺言等によって、誰が取得するのかを確定させることが必要になります。
手続きの分かれ道 移管するか、解約するか
取得する人が決まったら、次はそのまま持ち続けるのか、現金化するのかです。ここで投資信託特有の制約が出てきます。
移管する(持ち続ける)
取得する相続人の口座へ投資信託を移し、そのまま持ち続けます。どの金融機関の口座へ移せるかには制約があり、このあと整理します。
解約する(現金にする)
実務では、こちらを選ばれる方も多くあります。相続人名義の口座へ移管してから解約する金融機関が多い一方で、相続手続きの中でそのまま解約し、代金を受け取れる場合もあります。実際の流れは金融機関ごとに確認が必要です。
引き継ぐなら、まず同じ金融機関への移管を確認
多くの金融機関では、相続人が被相続人と同じ金融機関に口座を開設し、その口座へ投資信託を移管する形で相続手続きを行います。同じ金融機関であれば移管しやすいのが一般的ですが、銘柄によっては移管できず、現金化する取扱いとなる場合もあります。
一方、すでに利用している別の証券会社にまとめたいという場合には、受入先がその投資信託を取り扱っているか、他社への移管に対応しているかを確認する必要があります。投資信託の種類や金融機関の取扱いによっては、別の金融機関へ移管できないことがあります。
その場合には、被相続人と同じ金融機関の相続人口座で引き継ぐか、現金化するかを検討することになります。
必要書類は金融機関や遺言・遺産分割の内容によって異なりますが、戸籍関係書類(または法定相続情報一覧図)、印鑑証明書、遺産分割協議書(遺言がある場合は遺言書)、金融機関所定の相続手続書類などが必要になります。
相続税評価は「解約したら手取りでいくら戻るか」
上場株式は、死亡日の終値だけでなく、死亡月・前月・前々月の終値の月平均額も比べ、そのうち最も低い価額で評価します。
一方、上場していない一般的な投資信託は、原則として死亡日の基準価額を基礎に、その日に解約したと仮定した場合の手取り額で評価します。死亡日に基準価額がない場合には、死亡日前の最も近い日の基準価額を使用する場合があります。
一般的な投資信託
1口あたりの基準価額に口数をかけた金額から、解約したとした場合に源泉徴収される所得税等の相当額と、信託財産留保額・解約手数料等を差し引いた金額です。
日々決算型(MRF・MMFなど)
基準価額に口数をかけた金額に、まだ再投資されていない未収分配金を加え、その未収分配金にかかる所得税等の相当額と、信託財産留保額・解約手数料等を差し引いた金額です。
このように、証券会社の残高証明書に記載された時価評価額と、相続税申告で使う評価額は一致しないことがあります。残高証明書の数字をそのまま使うのではなく、相続税上の評価方法で計算し直すことが必要です。
ETF・REITは別です
同じ「投資信託」という名前でも、証券取引所に上場しているETF(上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)は、上場株式と同じ方法(4つの価額のうち最も低いもの)で評価します。名前だけで判断せず、上場しているものかどうかを確認する必要があります。
分配金 普通分配金と元本払戻金の違い
投資信託の分配金には、2つの種類があります。
【箇条書き】※2行を選択して箇条書きの書式を当てる。各行の「:」の前だけを太字にする
- 普通分配金:投資信託の運用の利益から払われる分配金です。所得税等(20.315%)がかかります。
- 元本払戻金(特別分配金):払い込んだ元本の一部が戻ってくるものです。税金はかかりませんが、その分、個別元本(取得価額)が下がります。
毎月分配型の投資信託では、受け取っていた分配金の多くが元本払戻金だった、ということもあります。「毎月これだけ入っていた」という金額が、そのまま利益だったとは限りません。分配金の明細(取引報告書など)を見ておくと、売却するときの取得費の確認にもつながります。 【見出し/H2】 相続開始後に入った分配金はどうなる?
亡くなったあとも投資信託の運用は続き、決算日がくれば分配金が出ます。受取型なら証券口座の預り金(MRFなど)に入り、再投資型なら口数が増えます。
相続開始後に口座へ入った分配金や償還金も、共同相続人の一人が自分の相続分だけを払い戻すよう求めることはできません(最高裁平成26年12月12日判決)。
最高裁は、相続開始後に生じて預り金として口座に入った分配金・償還金も、投資信託の受益権と同じように、相続分に応じて当然に分かれるものではない、としました。取得する人が遺産分割で決まるまでは、投資信託本体と同じく動かせない、と考えておきます。
税金の上では、分けて考えます。相続税は亡くなった日の評価で計算するので、亡くなったあとの決算で出た分配金は、相続財産に入りません。ただし、決算日が亡くなる前で、支払いが亡くなったあとになった分配金は、亡くなった時点で受け取る権利が決まっているので、相続財産に入ります。亡くなったあとの決算で出た分配金は、相続人の所得として扱われます。
遺産分割協議書にどう書くか
投資信託は、金融機関・口座・銘柄を特定して書きます。口数は分配金の再投資などで変わることがあるので、口座の投資信託をまとめて1人が取得するなら「全部」と書くのが分かりやすい方法です。
書き方の例は、次のとおりです。「○○証券株式会社○○支店の被相続人名義の口座(口座番号○○○○)で管理されている投資信託の受益権の全部(相続開始後に生じた分配金・償還金等を含む)及び同口座の預り金(MRFを含む)は、相続人Aが取得する。」
ポイントは、かっこ書きの部分です。相続開始後に入った分配金や、MRFに入っている預り金まで書いておくと、金融機関の手続きで「この分は誰のものか」と止まらずに済みます。銘柄ごとに取得する人を分けるときは、銘柄名と口数(亡くなった日の口数)を書きます。1つの銘柄を口数で分けて取得する書き方もできますが、金融機関によって扱いが違うので、先に確かめます。
NISA口座の投資信託はそのまま引き継げません
亡くなった方のNISA口座にあった投資信託は、相続人のNISA口座へ移すことはできません。相続人の特定口座か一般口座(課税口座)へ移すことになります。
- 非課税の扱い:亡くなった日までの値上がり益は非課税のままです。亡くなった日以後の分配金や値上がり益には、税金がかかります。
- 相続人の取得価額:亡くなった日の時価(基準価額)が、相続人の取得価額になります。
- 相続人のNISA枠:相続で受け取った投資信託は、相続人のNISA枠には入りません。NISAで持ちたい場合は、いったん売って、相続人自身の枠で買い直すことになります。
手続きでは、金融機関に「非課税口座開設者死亡届出書」を出します。なお、NISA口座にあっても、相続税の評価はほかの投資信託と同じです。非課税になるのは所得税等の話で、相続税は別です。
売却するときの取得費と個別元本
相続した投資信託を売る(解約する)と、利益に所得税等(20.315%)がかかります。このときの取得費は、亡くなった方の取得費(個別元本)を引き継ぎます(NISA口座にあったものは、前の章のとおり亡くなった日の時価です)。
- 特定口座から特定口座へ:取得価額の記録も引き継がれるので、金融機関が計算します。
- 一般口座や記録がない場合:取引報告書などで取得費を確かめます。分からないと、売った金額の5%を取得費とするしかなく、税金が大きくなることがあります。
- 相続税を納めた場合:亡くなってから3年10か月以内に売れば、納めた相続税の一部を取得費に足せます(取得費加算の特例)。
個別元本は、追加で買ったり、元本払戻金を受け取ったりするたびに変わります。相続税の評価額(亡くなった日の価額)と、売るときの取得費(個別元本)は別のものです。「相続税の評価額で引き継いだ」と考えると、売ったときの税金を見誤ります。
見落としやすいMRF・MMF
証券口座には、株式や投資信託のほかに、MRF(マネー・リザーブ・ファンド)という投資信託が入っていることがあります。株式や投資信託を売った代金や分配金が、自動的にMRFで運用されている形です。外貨建てのMMFを持っていることもあります。
残高証明書の「預り金」「MRF」の欄を見落とすと、相続税の申告漏れや、遺産分割の漏れにつながります。
MRFやMMFは、日々決算型の投資信託として評価します(前の「日々決算型」の計算)。外貨建てのMMFは、亡くなった日の為替レート(原則として、金融機関が公表する対顧客直物電信買相場、いわゆるTTB)で円に換算します。
残高証明書を取り寄せるときは、株式・投資信託だけでなく、預り金・MRF・外貨の残高もまとめて出してもらうよう依頼します。
投資信託の相続で本当に詰まるところ
投資信託の手続きそのものは、取得する人を決め、移管するか解約するかを選んで、金融機関の書式に沿って進めれば終わります。
本当に詰まるのは、その前の「誰が取得するか」です。値動きのある財産なので、相続税の評価額と、実際に解約したときの手取りは同じになりません。持ち続けたい人と現金で受け取りたい人がいると、ほかの財産とのバランスも含めて考え直すことになります。
分かれ目は、持ち続ける人がいるかどうか、そしてほかの財産とあわせてどう分けるかです。
全体の流れの中でいまどこを考えているかは相続の道筋地図で、似た状況でほかのご家族がどう決めたかは相続の判断例で確かめられます。
あわせて読む
- 手続きの全体像:株式相続の口座・株数・配当・税金までを一通り整理しています。
- 分け方と税金:代償分割と換価分割で、売ったときの税金がどう変わるかを比べています。
- 2分の1ずつの相続:有価証券を2人で分けて相続するときの注意点です。
- 株価の基準日:上場株式をいつの株価で考えるかを整理しています。
有価証券を「2分の1ずつ」相続するときの注意点|株式の半分とは何を意味する?
上場株式の相続は「いつの株価で考えるか」が大切です|相続税評価と遺産分割の違い
まとめ
投資信託は、ご本人がどのような考えで選んだのか、ご家族からは見えにくい財産です。
だからこそ、まず何を、どこで、どれだけ持っていたのかを正確に把握するところから始まります。
評価の仕方、移管できるか、現金化するか、売ったときの税金まで、順番に確認していくことが大切です。
司法書士田中康雅事務所では、相続手続き全体の整理役として、有価証券の調査から名義変更、遺産分割協議書の作成までお手伝いしています。相続税評価や売却時の税金が関わる場面では、必要に応じて税理士と連携して整理します。
投資信託が株式と同じ口座にあって、どこから手をつければよいか分からない段階でも、ご相談いただけます。初回のご相談は無料です。
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