数次相続の落とし穴|子ども名義へ「まとめる近道」は黄色信号――配偶者名義も相続税とセットで要注意
「名義をまとめてラクにする」ほど、あとで詰まりやすいのが数次相続です。子ども名義に一気にまとめると売るときの空き家特例(3,000万円控除)で、配偶者名義を経由すると2次相続の相続税で、「黄色信号」になることがあります。
「お父さんの名義のまま、特に困っていないからそのまま…」。こうした状態が続いたあとにお母様も亡くなってしまうと、いわゆる数次相続となり、登記の順番・相続税・売却の論点が一気に絡みやすくなります。
この記事の趣旨は、「簡単だから子ども名義」「とりあえず配偶者名義」ではなく、相続税(1次・2次)と将来の売却まで見据えて、総合的に決めましょうという「警報」です。
空き家特例は、その一例として触れます(特例のために結論を決める記事ではありません)。
この記事の内容
・1 「放置されやすい理由」 相続税の基礎控除が変わった(昔はかからなかった)
・2 名義がそのままの数次相続で、まず確認していただきたい3つのこと
・3 「近道の罠」 子ども名義に一気にまとめるのは黄色信号
・4 配偶者名義も「万能ではない」 2次相続との兼ね合いで黄色信号
・5 「登記が2回で損?」と思ったときの整理(免税措置・申請の組み立て)
・6 子どもが一人の場合は「ショートカット」ができないことがあります(要相談)
・数次相続で詰まるのは、手続きより「誰の名義にするか」
・あわせて読む
・司法書士からの結論 子ども名義も、配偶者名義も、どちらも「黄色信号」になり得ます
1 「放置されやすい理由」 相続税の基礎控除が変わった(昔はかからなかった)
数次相続のご相談は、「1次相続のときは特に税金がかからず、そのまま何もしなかった」という経緯が多いです。その背景として大きいのが、基礎控除の引き下げです。
相続税の基礎控除は、相続が起きた時期によって、次のように変わっています。
【箇条書き】※2行を選択して箇条書きの書式を当てる。各行の「:」の前だけを太字にする
- 平成26年12月31日まで:5,000万円+(法定相続人数×1,000万円)。法定相続人3名の例では8,000万円
- 平成27年1月1日以降:3,000万円+(法定相続人数×600万円)。法定相続人3名の例では4,800万円
「当時は申告が不要だった」つもりでも、いま整理すると申告が必要だった可能性が出ることがあります。だからこそ、次の「3つの確認」が重要です。
2 名義がそのままの数次相続で、まず確認していただきたい3つのこと
数次相続で「子ども名義へ一本化したい」というご相談は多いのですが、1次相続がどのように処理されていたかによって、進め方が大きく変わります。そこで、最初に次の3点を確認してください。
確認1 1次相続が「いつ発生したか」
基礎控除の水準が異なり、申告義務の有無や想定すべき論点が変わります。
確認2 1次相続で、遺産分割協議書を作成していたか
もし協議書が作られていた場合、その内容と異なる名義に変更すると、再分割と評価される可能性があり、状況によっては贈与認定のリスクが出ます。
確認3 1次相続で、相続税の申告をしていたか(または本当は必要だったか)
小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使えば税額が出ないため、申告をしないまま「そのままになっている」ケースもあります。ただ、この2つの特例は、申告をしてはじめて使えるものです。
また、1次相続の遺産分割が終わっていない財産には、原則としてこの2つの特例は使えません。申告期限から3年以内に分割すれば使えますが、それを過ぎると、やむを得ない事情があると認められた場合を除いて使えなくなります。
申告義務があったのに未申告のまま進めてしまうと、のちに照会が入った際の負担が重くなります。時効との兼ね合いも含め、税理士に必ず確認しておくのが安全です。
数次相続になると、場合によっては「1次相続はどういう整理だったのか?」が改めて問題になります。「登記だけ先に進める」のではなく、1次相続の事実関係(協議書・申告)を先に整えるのがおすすめです。
3 「近道の罠」 子ども名義に一気にまとめるのは黄色信号
数次相続では、手続きとしては「子ども名義にまとめるほうがラク」に見えます。ですが実務では、「ラクに見える選択」が、あとから効いてくることがあります。特に注意したいのが、将来の売却が視野に入るケースです。
下の図は、お父様(①)の遺産分割で、子どもが家を直接相続する形を示したものです(①が先に亡くなったお父様、②があとで亡くなったお母様)。
(例)空き家特例が「使えない形」になることがあります
たとえば、将来その家を売る可能性がある場合、空き家特例(相続空き家の3,000万円控除)の検討が入ることがあります。この特例は、とても有利な制度ですが、要件が厳しく、名義の決め方や手続きの順番によっては要件を満たせなくなることがあります。
具体的には、お父様が亡くなったときにお母様がその家に住んでいた場合、子どもがお父様から直接取得した形だと、「亡くなった方のほかに住んでいた人がいなかったこと」という要件を満たさず、特例を使えないことがあります。お母様がいったん取得し、お母様の相続で子どもが取得した形なら、使える可能性があります。
だからこそ「簡単だから子ども名義へまとめる」という判断は、売却を見据えると黄色信号になりやすいのです。
空き家特例に限りません。数次相続は「登記だけの話」ではなく、将来の売却や税務まで含めて、「いまの一手」が効いてくる場面がある――という点が大事です。
例に挙げた空き家特例の要件・期限・流れは、次の記事でチェックできます。
空き家特例(相続空き家の3,000万円控除)とは?|要件・期限・手続きの全体像
4 配偶者名義も「万能ではない」 2次相続との兼ね合いで黄色信号
一方で、「いったん配偶者(お母様)に移すほうが安全」と考えたくなる場面もあります。ただ、ここにも見落としやすい落とし穴があります。それが、2次相続(お母様の相続)との兼ね合いです。
配偶者に名義を移すと、その不動産は配偶者の財産として整理されます。つまり、1次相続が落ち着いたように見えても、2次相続で相続税の検討が必要になることがあります。「配偶者にしておけば安心」と決め打ちせず、2次相続まで含めて試算し、総合的に決めるのが安全です。
「配偶者の税額軽減があるから、とりあえず全部お母さん名義で」――相続の現場ではよくある判断ですが、2次相続の税負担は一度シミュレーションしておくと安心です。
「母が全部」か「法定相続分どおり」かで、2次相続まで含めた税額がどう変わるかを、次の記事で具体例を使ってやさしく整理しています。
とりあえず配偶者で大丈夫?|2次相続まで考えると、税金だけでは決められません
5 「登記が2回で損?」と思ったときの整理(免税措置・申請の組み立て)
数次相続で、お母様を経由して子どもへ名義を移す場合は、原則として①父→母(1次相続)→②母→子(2次相続)という2段階の登記が必要です。そのため「登記が2回=登録免許税も2回で損では?」と感じる方も少なくありません。
下の図は、お父様(①)の遺産分割でお母様(②)が家を取得していったん亡母名義になり、お母様の遺産分割で子どもが相続する、この2段階の形を示したものです。
(1)登録免許税の免税措置が使える場合があります(土地のみ/期限あり)
今回のように「父→(母が登記しないまま死亡)→子」という数次相続では、「亡くなったお母様名義にするための登記」にかかる登録免許税が、免税になる場合があります。ただし対象は土地のみで、建物には適用されません。また、この免税措置は時限措置で、現時点では令和9年3月31日までとされています。
免税措置の案内は、法務局のページにまとまっています。
(2)中間者が「母のみ」の数次相続は、1回の申請で整理できる場合もあります
数次相続でも条件が合えば、1回の申請で「父の相続」と「母の相続」を連記する形で整理できる場合があります。ただしこれは、登記上の組み立てが可能という話であって、税務上の判断が自動で安全になるわけではありません。
いちばん大事なのは、税理士への確認です。登記の「やり方」が、税務判断の土台になることがあります。
依頼者の利益(税金を抑えること)を考えると、司法書士として安易に「登記費用が安くなるから1回でやりましょう」とは言い切れません。売却予定がある場合や、特例検討の余地がある場合は、先に税理士へ相談し、税務上の不利益がないか確認するのが安全です。
(3)空き家特例は「その一例」です(最近はここで結論が変わることも)
たとえば、将来の売却で空き家特例(相続空き家の3,000万円控除)を検討する場面では、「登記のまとめ方」が、結果として要件を満たせない形につながる可能性もゼロではありません。だからこそ、空き家特例は「推し」で引っ張るのではなく、総合判断の中の一要素として位置づけるのが現実的です。
6 子どもが一人の場合は「ショートカット」ができないことがあります(要相談)
「遺産分割協議」は相続人「全員」で行う手続きです。相続人が最終的にお一人の場合、協議そのものが成立しないため、手続きの組み立てが変わることがあります。
裁判例でも、相続人が1人だけになったあとは、その1人で遺産分割はできないとされています(東京高等裁判所平成26年9月30日判決)。この場合は、法定相続分でいったん登記してから、お母様の持分を子どもへ移す形になり、登記は2回です。ただし、お母様が亡くなる前に、お母様と子どものあいだで分け方の話し合いがまとまっていた場合は、その内容を子どもが証明する書面で登記できることがあります。
ここは個別事情で判断が分かれますので、慎重に確認してください。
数次相続は、登記だけでなく相続税(1次・2次)や将来の売却まで絡むため、「簡単だから」という理由だけで結論を出さず、税理士等の専門家と連携して総合判断するのが安全です。
数次相続で詰まるのは、手続きより「誰の名義にするか」
数次相続の登記そのものは、1次相続の分け方が決まれば進められます。中間がお母様だけなら1回の申請で整理できる場合もあり、亡くなったお母様の名義にする土地の登記は、令和9年3月31日まで登録免許税が免税です。
本当に詰まるのは、誰の名義にするかを決める場面です。子ども名義にまとめれば手続きはラクですが、将来売るときに空き家特例を使えない形になることがあります。お母様を経由すれば、その分が2次相続の財産に入り、相続税の検討が要ります。
分かれ目は、その家を将来売る可能性があるかどうかと、1次相続と2次相続を合わせた相続税をどう見るかです。
全体の流れの中でいまどこを考えているかは相続の道筋地図で、似た状況でほかのご家族がどう決めたかは相続の判断例で確かめられます。
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司法書士からの結論 子ども名義も、配偶者名義も、どちらも「黄色信号」になり得ます
数次相続では、子ども名義にまとめるのも、配偶者に一旦移すのも、どちらも万能解ではありません。相続税(1次・2次)・登記の組み立て・売却予定(特例検討)まで含めて、全体を見て決めるのが一番安全です。
とくに、2次相続対策は後回しになりやすいので、「今の相続だけ」で終わらせずに一度立ち止まって整理しておきましょう。
当事務所では、必要に応じて税理士等とも連携しながら、全体を見渡して整理の道筋を作ります。
「うちは子ども名義でまとめていい?」「配偶者にしておいたほうがいい?」という段階でも、ご相談いただけます。初回のご相談は無料です。
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