配偶者か子か。決められないなら「今は決めない」|相続登記を急ぐ前に
相続登記の期限は「取得を知った日から3年以内」。ただし、その日までに「誰が自宅を相続するか」を決めなければならないわけではありません。
「相続登記の期限があるから、早く決めなきゃ」。最近、そんなふうに少し慌ててご相談に来られる方がいらっしゃいます。 決まらないときは相続人申告登記という方法があります。この記事では、自宅を配偶者と子どものどちらの名義にするかで迷ったときの考え方を整理します。
この記事の内容
・配偶者か子どもかは、簡単には決められない
・数年後には、家族の状況が変わっているかもしれない
・「まだ遺産分割をしない」という選択
・相続登記の期限と、遺産分割を決める期限は同じではない
・決まらないときの「相続人申告登記」
・ただし「いつまででも決めなくていい」わけでもありません
・「とりあえず誰かの名義にしておく」は注意
・大切なのは「早く決めること」ではなく「何を見て決めるか」
配偶者か子どもかは、簡単には決められない
たとえば、夫が亡くなり、自宅を妻が相続するのか、子どもが相続するのか。子どもはまだ20代で独身。将来結婚するかもしれない。自分で家を買うかもしれない。実家に住むかもしれない。あるいは、数年後には実家を売却することになるかもしれない。 まだ、何も決まっていません。
配偶者が相続した方がよい場合
【本文】 長年住んできた自宅を自分の名義にしておく安心感。必要になれば売却して老後資金にできる。「夫婦の家なのだから、まず妻が」というのが自然なご家庭もあります。
子どもが相続した方がよい場合
2次相続まで考えると、最初から子どもが取得した方が税務上有利になることがあります。二度目の相続登記が不要になり、将来の手続コストも抑えられます。
つまり、「配偶者が正解」「子どもが正解」と簡単に決められるものではありません。
数年後には、家族の状況が変わっているかもしれない
今20代の子どもが、5年後、10年後にどんな生活をしているかは分かりません。結婚する。自分の家を買う。実家に戻る。転勤する。離婚する。家族構成も、経済状況も、そして気持ちも変わります。 たとえば、子ども2人の共有にしたものの、その後それぞれの生活が変わり、一人は「売りたい」、もう一人は「離婚したので、ここに住みたい」。そんなこともあるかもしれません。 配偶者についても同じです。今は元気で「将来、必要になったらこの家を売ればいい」と考えていても、その後認知症などで判断能力が低下すれば、ご自身の意思だけで売却することが難しくなることがあります。 また、1次相続では配偶者が相続した方が有利に見えても、その配偶者が亡くなったときの2次相続まで計算すると、結果として税負担が大きくなる場合もあります。 相続の直後に、将来のことまですべて見通すことはできません。だからこそ、まだ答えが出ていないのであれば、「今は決めない」というのも一つの選択肢だと思っています。
「まだ遺産分割をしない」という選択
もちろん、これは誰にでも当てはまる話ではありません。特に注意しなければならないのが相続税です。
相続税の期限と特例は、分割を待ってくれません
- 申告期限は、原則として、亡くなったことを知った日の翌日から10か月
- 小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減は、原則として、分割された財産が対象 未分割のままでも、一定の手続をしたうえで後から特例を受ける方法はありますが、判断は簡単ではありません
相続税がかかる場合には、税理士と連携して慎重に検討した方がよいでしょう。ですから、今回のお話は主として次のような方をイメージしています。
小規模宅地等の特例などを使わなくても、相続税の課税価格が基礎控除以下で、相続税の申告が不要と確認できる方。
相続登記の期限と、遺産分割を決める期限は同じではない
ここは、かなり誤解されているところです。2024年4月1日から相続登記が義務化されました。原則として、不動産を相続によって取得したことを知った日から3年以内に相続登記をする必要があります。そして、制度開始前に発生していた相続についても対象です。 そのため、制度開始前の相続では、最も早い方で2027年3月31日が期限になります。
2つの期限を、並べてみます
- 相続登記(申請義務)は、取得を知った日から3年以内。制度開始前の相続は、最短で2027年3月31日
- 遺産分割(誰が取得するか)には、「○年以内に必ず成立させる」という一律の期限はない。ただし、相続開始から10年を経過すると、考慮できる事情が制限される
「相続登記に期限がある」ことと、「その日までに誰が不動産を相続するか決めなければならない」ことは、同じではありません。
2027年3月31日までに相続登記が必要な人|2024年4月1日より前の相続も対象です
決まらないときの「相続人申告登記」
下の図は、相続登記の義務と、遺産分割が決まらないときの相続人申告登記の関係を並べたものです。遺産分割が決まらない段階でも、義務に対応する方法があります。
申し出た相続人は、義務を果たしたことになります
遺産分割がまだ決まっていない場合には、「相続人申告登記」という制度があります。法務局に、自分が登記名義人の相続人であることなどを申し出ることで、申出をした相続人については、相続登記の申請義務を履行したことになります。 ただし、これは通常の相続登記とは違い、「誰がその不動産を取得したのか」を確定する登記ではありません。持分も登記されません。
相続人申告登記の位置づけ
- 特定の相続人が単独で申し出ることができる 法定相続人の範囲や相続分の割合を確定させる必要がない 添付書類が相続登記より簡易
- 不動産の権利関係を公示するものではない
その後、遺産分割が成立して不動産を取得した人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容に沿った相続登記をすることになります。つまり、「3年の期限が来るから、今すぐ配偶者か子どもかを決めなければならない」わけではないのです。
相続人申告登記とは|遺産分割が決まらないまま相続登記の期限が来たら
ただし「いつまででも決めなくていい」わけでもありません
遺産分割協議そのものには、「○年以内に必ず成立させなければならない」という一律の期限はありません。ただし、相続開始から10年を経過すると、原則として特別受益や寄与分を考慮した具体的相続分による遺産分割が制限されます。 また、遺産分割をしないまま次の相続が発生すれば、関係する相続人が増えて、かえって話が複雑になることもあります。 「何もしないで放っておけばいい」ということではありません。今決めた方がいいのか。少し待った方がいいのか。そこを考えることが大切です。
「とりあえず誰かの名義にしておく」は注意
もう一つ注意していただきたいのが、「とりあえず誰かの名義にして、あとで変えればいい」という考え方です。 遺産分割協議は、相続人全員の合意によって民法上やり直すことができる場合があります。しかし、いったん遺産分割によって各相続人に帰属した財産を改めて移すと、税務上は原則として新たな贈与や交換などとして扱われる可能性があります。
最初から決めないことと、一度決めたものを後から変えること。これは、同じではありません。
また、自宅については「誰が相続したか」によって、将来売却した際の税金や使える特例が変わることがあります。実際に、相続登記を急いだ結果、後から「別の人が相続していればよかった」というケースもあります。
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大切なのは「早く決めること」ではなく「何を見て決めるか」
下の図は、自宅の名義を決めるときに見る7つの視点を、法・税・暮らし・想いの4つの面に分けて並べたものです。
期限は守れます。決めるのは、その先です
2027年3月31日が近づくにつれて、「相続登記をしないといけないから、早く誰の名義にするか決めなければ」という方は増えてくると思います。もちろん、期限を守ることは大切です。 でも、まだ家族の状況が見えていない。自宅を売るかどうかも決まっていない。配偶者がこのまま住み続けるのか、将来子どもが住むのかも分からない。そんなときは、必要な手続だけをして、遺産分割については少し時間を置く。それも一つの方法です。
決めるときに確認したいこと
- ① 相続税がかかるか(税)
- ② 配偶者の資産・収入(暮らし)
- ③ 今の不動産価格が分かるか(法)
- ④ 購入価格・建築時期が分かるか(税)
- ⑤ 配偶者の終のすみ家となるか(暮らし)
- ⑥ 配偶者亡きあとの方針(法)
- ⑦ 子どもたちの意向(想い)
自宅そのものの決め方は、7つの視点に分けて整理しています。何を決めなければならないかは相続の道筋地図に、ほかのご家族がどう決めたかは相続の判断例に並べてあります。
まとめ
- 相続登記の期限と、遺産分割を決める期限は同じではない
- 決まらないときは、相続人申告登記で義務に対応できる
- ただし10年の区切りがあり、放置してよいわけではない
- 「とりあえず誰かの名義に」は、後から変えると税務上の負担が生じることがある
相続は、早く終わらせることが目的ではありません。今、決めるべきこと。今は、まだ決めなくていいこと。そこを整理することから始めてもいいのではないでしょうか。整理を尽くしたうえで出てくる「大丈夫です」は、急いで出した結論よりも、ずっとご家族の心を軽くしてくれると思っています。
初回のご相談は無料です
「今決めるべきか、少し待つべきか」。その整理からお手伝いします。相続税がかかる場合は税理士と連携します。争いの代理や交渉が必要になる場合には、必要に応じて弁護士をご紹介します。その手前の、事実関係と資料の整理は当事務所でお手伝いします。 期限にだけ対応しておきたい、けれどもご自身で申し出るのは難しい。そういう場合にお使いいただける方法もあります。
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