生前に相続人が預金を引き出したら
生前に相続人が預金を引き出した場合、相続ではどのように考えたらいいのでしょうか。
案件ごとに解釈、考え方は違うと思いますので、あくまで参考にしていただければと思います。
1 生前に相続人が勝手に引き出してしまい、その現金を相続人が自分のために使ってしまった場合は、不法行為か不当利得に該当する可能性が高く、被相続人に損害賠償請求権や不当利得返還請求権(*①②)が発生し、相続人がその請求権を承継することになるでしょう。なお、勝手に使い込んだ相続人が返還に応じたり、遺産分割の対象として同意・承諾をした場合には、相続財産に戻して遺産分割の計算をします。相続税上も基本的には前記請求権額や遺産に戻した使い込み現金は、相続財産として計算するものと考えられます(必ず税理士又は税務署にご確認ください)
*①(不当利得の返還義務)
民法第703条
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
*②(悪意の受益者の返還義務等)
第704条
悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
2 被相続人から頼まれて預金を引き出した場合は、被相続人のための委任契約(財産管理契約)が成立していると考え、引き出したお金を相続人が勝手に使い込んだ場合は返還の責任を負う(*③)のか、あるいはちょっと耳慣れない言葉では消費寄託契約(*④)が成立しているととして、少なくとも相続人が使ってしまった部分に関しては返還請求権が発生しているとの考え方があります。相続税上も返還請求権を相続財産に計上する必要があろうかと思われます。(個別案件については、税理士又は税務署にご確認ください)
*③(受任者の金銭の消費についての責任)
民法第647条
受任者は、委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
*④(消費寄託)
第666条
受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合には、受寄者は、寄託された物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還しなければならない。
3 使い込んでしまったのは事実だが、被相続人からの贈与があったと主張されるケースがあります。贈与の場合は、贈与者と受贈者の合意が必要です。また引出しの委任があったか、贈与者の意思や判断能力があるか、贈与税が申告されているか(基礎控除を超える場合)等、総合的な判断のための根拠資料が重要となってきます。仮に贈与が認められた場合であっても今度は特別受益といって計算上相続財産に持ち戻して各人の相続分を算定することになりますので、話はより複雑になってきてしまいます。
4 被相続人のために引き出した場合は、その使用用途を証明できる資料(領収書等)がカギになります。資料があり、被相続人のために使用したことが証明できれば、問題になることはほぼないでしょう。ただ、被相続人のために使ったといっても、あまりにも高額なもの、不必要なものに使った場合には、後々揉める種になったり、責任を問われてしまうかもしれませんのでその辺は注意が必要です。
例えば、被相続人の了承はなく月1回の介護施設送迎のためといって被相続人名義の高級車を購入、普段は相続人がほとんど使用した場合等は、考え方によっては不当利得になるかもしれないですね。
相続人が生前に預金を使い込んでいる場合、相続人間で納得・合意する余地がまだある場合は、まとめ役として、まずは遺産整理受任者等としての司法書士、行政書士、相続税の専門家としての税理士等相続の専門家に説明してもらうのはいい方法かと思います。ただ相続人間での主張見解が食い違っている場合や、最初から争っている場合でご相談者の方ではまとめるのが困難な場合には弁護士のお世話になるのが賢明かと思います。
その見極めは、相続の経験が多い士業にご相談されるのがいいと思います。
無料相続相談を活用してどこに依頼するかの判断材料としてみてはいかがでしょうか。
生前、死後の相続財産に関する
相続相談事務所
川崎市麻生区稲城市司法書士田中康雅
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